都の過去の気候の状況について、区部、多摩部、島しょ部の地域ごとに整理します。なお、気象庁の観測所のデータを基に整理しており、区部は、東京、多摩部は、府中、八王子、青梅の3地点平均、島しょ部は、三宅島、八丈島、父島の3地点平均で示しています。
年平均気温
年平均気温は、区部、多摩部、島しょ部ともに上昇傾向にあります。
年平均日最高気温・年平均日最低気温
年平均の日最高気温、日最低気温は、区部、多摩部、島しょ部ともに上昇傾向にあります。
真夏日・猛暑日・熱帯夜1の日数
真夏日、熱帯夜は区部、多摩部、島しょ部ともに増加傾向にあります。猛暑日は、区部、多摩部で増加傾向にあり、島しょ部では観測されておりません。
1 熱帯夜は、夜間の最低気温が25℃以上のことをいうが、最低気温が25℃以上の日を「熱帯夜」として分析した。
降水量・無降水日1
降水量は、年による増減が大きく、区部、多摩部、島しょ部とも明確な変化傾向は見られません。
無降水日の日数は、区部では増加傾向にあり、多摩部、島しょ部では明確な変化傾向は見られません。
1 降水量が1mm未満の日を「無降水日」とした。
短時間強雨
短時間強雨(1時間降水量50㎜以上)の年間発生回数は、観測データが少なく、区部、多摩部、島しょ部とも明確な変化傾向は確認できませんが、気象庁がまとめた全国1,300地点の発生回数では、最近10年間(2010~2019年)の平均年間発生回数(約327回)は、統計期間の最初の10年間(1976~1985年)の平均年間発生回数(約226回)と比べて約1.4倍に増加しています。
台風
2019年の台風の発生数は29個で、平年値(1981~2010年の30年平均)の25.6個よりやや多いものの平年並みでした。1990年代後半以降は、それ以前と比べて発生回数が少ない年が多くなっているものの、1951~2019年の統計期間では、発生回数、上陸回数に大きな変化傾向は見られません。
ただし、1980年から2019年までの40年間の観測データによると、東京では、接近する台風の数が増加しており、期間の前半20年に比べて後半20年の接近数は約1.5倍になっています。980hPaより低い状態で接近する頻度は2.5倍となるなど、強い強度の台風に注目しても接近頻度が増えています。また、台風の移動速度が遅く(36%減)なっており、台風による影響時間が長くなっています1。
1 気象研究所報道発表「過去40年で太平洋側に接近する台風が増えている」(令和2年8月25日)
海面水位
過去100年の日本沿岸の海面水位は、10年から20年周期の変動と50年を超えるような長周期の変動が大きく、世界平均海面水位に見られるような上昇傾向は見られませんが、1980年以降については上昇傾向が見られます。
1 「日本の気候変動2020 —大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書—(詳細版)」(令和2年12月)
将来の気候の変化予測は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書で用いられた4つのシナリオのうち、最も温室効果ガスの排出が多いシナリオ(RCP8.5シナリオ)に基づいて予測された「地球温暖化予測情報第9巻」1(気象庁)の予測結果を用いています。また、項目ごと、区部、多摩部及び島しょ部の地域ごとに、将来(2086~2095年の10年平均)と現在(2010~2019年の10年平均)を比較しています。(台風、海面水位を除く。)
1 「地球温暖化予測情報第9巻」データは気象庁気象研究所が開発した気候モデルを利用して、文部科学省気候変動リスク情報創生プログラムにおいて計算されたデータを元に作成している。
気温
気温は、区部、多摩部、島しょ部とも将来は現在よりも上昇すると予測されます。また、どの地域でも平均気温や日最高気温と比べて日最低気温がより上昇すると予測されています。
真夏日・猛暑日・熱帯夜の日数
将来は現在よりも真夏日、猛暑日、熱帯夜は増加すると予測されます。
年降水量・短時間強雨・無降水日
年降水量は、区部及び島しょ部では将来は現在より減少する傾向を示しています。一方、多摩部では増加傾向を示しており、地域により増減の傾向に違いが見られます。
短時間強雨及び無降水日は、全ての地域で増加する傾向を示しています。
台風
台風の将来予測に関しては不確実性が小さくありませんが、次のように予測されています。
・地球温暖化により北西太平洋での台風発生数は全般的に減少し、さらに最も発生数の多い海域が現在のフィリピン近海から将来はその東方に移ることにより、日本への台風接近数が減少します1。
・日本付近の台風の強度が強まり、スーパー台風2と呼ばれる強度で日本にまで達します2。
・台風に伴う降水については、将来個々の台風の降水強度が増大し、雨量が増加する一方、日本に接近する台風は減少するため、台風に伴う降水の年間総量には変化がありません3。
・台風接近数の減少と比べて、個々の台風の降水強度増大の影響をより強く受けるため、台風に伴う非常に激しい降水の頻度は増加します3。
1 「気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~」(平成30年2月)
2 スーパー台風とは、米国の合同台風警報センター(JTWC)が設定する最大強度階級であり、1分平均の最大地上風速が130ノット(約67m/s)以上に相当する。
3「気候変動影響評価報告書詳細」(令和2年12月)
海面水位4
東京周辺の沿岸域の年平均海面水位は、21世紀末(2081~2100年平均)には20世紀末(1986~2005年平均)と比べて、RCP8.5の下では、0.70m(0.45~0.95m)上昇すると推定されます。
4「日本の気候変動2020 —大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書—(詳細版)」(令和2年12月)
これまでに述べた将来の気候の変化予測に基づき、①自然災害、②健康、③農林水産業、④水資源・水環境、⑤自然環境の5つの分野に分けて、気候変動により予測される影響について説明します。
洪水・内水氾濫
豪雨の増加、海面水位の上昇、台風の強大化等により、浸水被害の甚大化や頻発化が想定されます。
また、河川や海岸等の近くの低平地等では、河川水位が上昇する頻度の増加や海面水位の上昇により、下水道等から雨水を排水しづらくなることなどによる内水氾濫の可能性が増え、浸⽔時間の⻑期化を招くと想定されます1。
1 日本における気候変動による影響の評価に関する報告と今後の課題について(意見具申)(平成27年3月)
高潮・高波
海面水位の上昇及び台風の強大化により高潮による浸水のリスクは高まります2。
また、台風の強度の増加等による太平洋沿岸地域における高波のリスク増大の可能性、波高や高潮偏差の増大による港湾及び漁港防波堤等への被害等が予測されています。
2 「気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート2018〜⽇本の気候変動とその影響〜」(平成30年2月)
土砂災害
豪雨の増加に伴い、土砂災害発生頻度の増加が想定されます。また、突発的で局所的な大雨の増加に伴い、警戒避難のためのリードタイムが短い土砂災害の増加や台風等による記録的な大雨に伴う深層崩壊等の増加が懸念されます。
暑熱
高齢者を中心に暑熱による死亡者数が増加傾向にあることが報告されています。また熱中症については、年によってばらつきはあるものの、救急搬送人員・医療機関受診者数・熱中症死亡者数は増加傾向にあります。高齢者への影響が大きいものの、真夏日・猛暑日の増加に伴い、若年層の屋外活動時の熱中症発症リスクも高くなっており、暑熱による影響は、睡眠の質の低下やだるさ、疲労感などの身体機能の低下や心身ストレスなどの健康影響にも及びます。
また、気温上昇により熱ストレスが増加し、特に高齢者の熱中症リスクが増加することが予測されています。
2090 年代には、東京・大阪で日中に屋外労働可能な時間が現在よりも30〜40%短縮すること、屋外労働に対して安全ではない日数が増加することや、屋外での激しい運動に厳重警戒が必要となる日数が増加することなどの予測もあります。
感染症等
気候変動による気温の上昇や降水の時空間分布の変化は、感染症を媒介する節足動物(蚊など)の分布可能域や活動期間、人的被害を及ぼす外来生物の侵入・定着率を変化させ、節足動物が媒介する感染症等のリスクを増加させる可能性があります。
温暖化と大気汚染の複合影響
地球温暖化と大気汚染の複合影響について、気温上昇による生成反応の促進等により、様々な汚染物質の濃度が変化していることが報告されており、微小粒子状物質(PM2.5)や光化学オキシダント濃度上昇に伴う健康被害が増加するおそれがあります。
園芸作物(野菜・花き)
露地野菜では、コマツナ等の葉菜類、ダイコン等の根菜類等が、高温により収穫期が早まる傾向にあります。また、高温や乾燥の影響により、生育初期の発育不良が増加する傾向にあります。さらに、果菜類でも高温による着果不良が発生しており、特に施設のトマト栽培では顕著にみられます。
果樹
日本ナシなど果樹全般について、冬から春の温暖化の影響で発芽や開花が早まったことにより、その後の霜害による花芽や新梢が枯死するなどの被害が見られています。また、夏の高温によるブドウの着色不良や日本ナシ・キウイフルーツなどに日焼け果といった障害が発生しています。果実肥大期以降の高温・少雨による果肉障害(みつ症、裂果等)も生じています1。
1 令和2年地球温暖化影響調査レポート(農林水産省、令和2年10月)
畜産
乳用牛や採卵鶏では、送風や散水等の対策による影響低減が可能ですが、温暖化とともに泌乳量や産卵率の低下や軟卵の発生が増加することが予測されています。また、育種や飼育形態により異なりますが、温暖化とともに肉豚、⾁⽤鶏の成⻑の低下が発生する地域が拡大するほか、低下の程度も大きくなると予測されています。
病害虫
害虫については、ハダニ類、シンクイムシ、スリップス類など高温を好む害虫が多発し、また発⽣時期が⻑期化する傾向にあります。病害については、これまで明確に気候変動により増加した事例は見当たりませんが、病害虫の発生増加や分布域の拡大による農作物への被害の拡大の可能性があります。
農業生産基盤
多雨や渇水等の極端な気象現象の増大や年間平均気温の上昇により、全国的に農業生産基盤である農地への影響が予測されています。また、近年では集中豪雨が頻発しており、農地の湛水被害等のリスクが増加することが予測されています。
森林・林業
気温上昇と降水パターンの変化によって、大気の乾燥化による水ストレスが増大することにより、人工林のスギ林が衰退する可能性があります。
水産業
回遊性魚介類について、海水温の温度上昇により漁獲量が低下する可能性があります。沿岸・固着性種では⻑期的にはヒラメ、マダイ、クロアワビの漁獲量減が予測されています。藻場を構成する海藻草類は、種によっては短期的にも影響を受けることが予測されています2。
2 桑原久実,明田定満,小林聡,竹下彰,山下洋,城⼾勝利(2006):温暖化による我が国水産生物の分布域の変化予測,地球環境Vol.11No.1
水資源
都の主要な水源である利根川水系では、平成以降において夏冬合わせて9回の渇水が発生しています。
今後、年降水量や季別降水量の年変動は大きくなり、少雨の発生の頻度は大きくなるとともに、季別の降水パターンの変化、積雪量の減少、融雪時期の早まりなどにより、水資源の利用可能量は減少すると予測されています1。
また、気候変動による気温の上昇は、飲料水・冷却水等都市用水の需要を増加させる可能性があります。
1 地球温暖化と世界と日本の水問題, 水資源・環境研究Vol.21 2008,渡邉pp.15〜24
水環境
気候変動によって水温の変化、水質の変化、流域からの栄養塩類等の流出特性の変化が想定されます。
河川については、大雨・短時間強雨の増加で土砂の流出量が増加し、濁度の上昇をもたらす可能性があるほか、水温の上昇による溶存酸素量の低下、微生物による有機物分解反応の促進、藻類の増加等も予測されています。
閉鎖性水域については、表層海水温の上昇傾向が報告されています。また、海面上昇に伴い、沿岸域の塩水遡上域の拡大が想定されます。
陸域生態系
自然林・二次林については、冷温帯林の構成種の多くは、分布適域がより高緯度、高標高域へ移動し、分布適域の減少が予測されている一方、暖温帯林の構成種の多くは、分布適域が高緯度、高標高域へ移動し、分布適域の拡大が予測されています。
気温の上昇や積雪期間の短縮等によって、ニホンジカなどの野生鳥獣の生息域が拡大することが予測されています。
淡水生態系1
湖沼や河川では、温度上昇やCO2増加により藻類の生産速度が増加しますが、栄養塩供給が乏しい淡水生態系では、藻類の増加はその餌としての質を低下させるため、高次生産は減少すると予測されています。
1 Urabe J., J. Togari, and J. J. Elser, 2003: Stoichiometric impacts of increased carbon dioxide on a planktonic herbivore, Global Change Biology, 9, 818-825
沿岸・海洋生態系
亜熱帯地域では、海水温の上昇等によりサンゴの白化現象が既に発現しています。将来は、造礁サンゴの生育に適する海域が水温上昇と海洋酸性化により2040年までに消失する可能性があると予測されています。
東京湾では、東南アジア原産の南方系のミドリイガイの越冬事例が確認されています。また、以前は夏にしか見られなかった南方系のチョウチョウウオが秋以降まで見られるようになる等の変化が生じています。
生物季節
ソメイヨシノの開花日の早期化など、様々な種への影響が予測されています。また、個々の種が受ける影響にとどまらず、種間の様々な相互作用への影響が予想されています。
分布・個体群の変動
分布域の変化やライフサイクル等の変化が起こるほか、種の移動・局地的な消滅による種間相互作用の変化が更に悪影響を引き起こす、生育地の分断により気候変動に追随した分布の移動ができないなどにより、種の絶滅を招く可能性があるとする研究事例があります。
気候変動により外来種の侵入・定着率の変化につながることが想定されています。