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硫酸ピッチ

脱税の目的で製造・使用される「不正軽油」が大きな問題となり、環境局や主税局では平成12年から「不正軽油撲滅作戦」を実施し、大きな成果を上げてきました。しかしここ数年、不正軽油を識別するために重油や灯油に添加されている識別剤(クマリン)を分解除去した不正軽油の製造が増加しています。クマリンの分解過程では濃硫酸が使用されるため、硫酸中にクマリンの分解物や、重油中の硫黄分、アスファルト質、ゴム質などが溶け込み、これらが酸化・重合して硫酸ピッチと呼ばれるタール状の物質が生成します。

不正軽油と硫酸ピッチの生成イメージ図 不法投棄され、外にこぼれた硫酸ピッチの写真
不法投棄され、外にこぼれだした硫酸ピッチ

硫酸ピッチは、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」では特別管理産業廃棄物に該当しますが、処理に高額な費用がかかるため、全国各地で不法投棄され、環境に与える影響が危惧されています。

 環境科学研究所は、硫酸ピッチによる環境汚染の実態を調査するため、環境局不法投棄担当と共に不正軽油の製造工場に立ち入りし、硫酸ピッチを採取して、分析を行いました。その結果、硫酸ピッチは非常に強い酸性を示し、環境中に漏出すると、土壌や地下水を酸性化するだけでなく、周辺の植物や河川の生物などへも影響を及ぼすおそれがあることが判明しました。

○ 環境科学研究所による分析例

サンプル 密造工場採取 産廃業者の不正保管品 基 準 等 備   考
採取日 2003.2 2004.2  
ドラム缶1 ドラム缶2
外観・性状 黒色
タール状
比重 1.4
黒色
泥状(粘り気なし)
比重 1.26
黒色
泥状(粘り気なし)
比重 1.24
  放置すると油分等の揮発や、硫酸の反応が進み、粘性を増し、固化する。
主成分 油分 (ヘキサン可溶分)  7.7%
タール分(ジクロロメタン可溶分)34%
油分  9.1%
(ドラム缶上部に油層)
油分  6.1%
(ドラム缶上部に油層)
  
酸性度(pH) 原液 測定不能
10倍希釈  pH1以下1000倍希釈 pH2.1
原液
 測定不能

1000倍希釈 pH2.38
原液
 測定不能

1000倍希釈 pH2.4
特別管理廃棄物(pH2以下)
排水基準:pH5.8〜8.6基準に適合するには、水で50万倍に希釈する必要
放置による影響:土壌酸性化、土壌中金属類の溶出による地下水汚染、植物の枯死
皮膚腐食や周辺河川の魚類の生息にも悪影響
発生ガス 二酸化イオウ(SO2)     3600ppm以上 250ppm 120ppm 大気環境基準:
 1時間値 0.1ppm
 20ppm     目の刺激
 30〜 40ppm  呼吸困難
400〜500ppm  生命に危険
有害な化学物質 トリメチルベンゼン
 600ppm
ジエチルベンゼン   200ppm
トルエン 10ppm
その他 芳香族炭化水素等
     トリメチルベンゼン、トルエンなどはPRTR法第1種指定化学物質
これらは、原料の重油などから移行したと推定される
吸入毒性、水生生物への毒性など
金属類 鉄 500ppm、クロム 20ppm、アルミニウム21ppm、その他マグネシウム、ニッケル、銅等     重油に含まれる金属及びタンク・ドラム缶からの溶出 土壌、地下水の金属汚染 アルミニウム:植物生育阻害

採取した硫酸ピッチのサンプル写真  硫酸ピッチは、当初はタール状ですが、時間の経過とともに徐々に固化して、処理は一層困難になります。そのため、不正軽油の密造防止とあわせ、硫酸ピッチの不法投棄の防止、投棄された硫酸ピッチの撤去、処理、処分が早急に求められています。

<参考文献>

硫酸ピッチの性状分析 
 環境科学研究所年報 2003年版


不正軽油ならびに硫酸ピッチの分析結果 平成15年度全環研報告


(採取した硫酸ピッチのサンプル)
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