東京を駆け回る「清掃船」
河川環境保全の取り組みとは?
隅田川や神田川、街中に流れる小さな川など、東京の風景や暮らしに根付く河川。ごみや悪臭などがない川の姿は、今や当たり前のように感じられますが、その裏には日々浮遊ごみの回収に駆け回る清掃船の存在があります。河川の衛生環境や美観を守るため、河川清掃に取り組む東京都環境公社(以下、環境公社)技術支援部中防管理事務所の皆さんにお話を伺いました。
お話をしてくれた人
中須賀崇さん(東京都環境公社 技術支援部中防管理事務所 河川事業係長)
小林遼一さん(東京都環境公社 技術支援部中防管理事務所 河川事業係主任)
高橋雅喜さん(東京都環境公社 技術支援部中防管理事務所 河川事業係)
東京の川は今どうなっている? 気候変動の影響も
―東京の川はきれいな印象がありますが、浮遊ごみはどのくらいあるのでしょうか?
中須賀さん:私たち環境公社が清掃活動を行っているのは、隅田川・神田川などの大きな河川や、東京東部の江東三角地帯を流れる11の内部河川など、合わせて29の河川です。浮遊ごみの量は年々減っており、平成20年頃は約400トンあったのが、令和7年度には過去最も少ない213トンまで減少しました。浮遊ごみが減ってきた背景には、長年にわたり河川清掃や護岸整備が進められたことや、企業・消費者などのごみ削減に対する意識や行動の変化があります。
例えば隅田川は、高度成長期にはドブ川と呼ばれることもあったほどひどい状況でしたが、今では魚が住んでいるようなきれいな状態です。美しい景観づくりが進み、水に親しむ空間にもなっていますね。
―近年は気候変動の影響で、台風や豪雨が増えています。浮遊ごみへの影響はいかがですか?
高橋さん:台風や大雨の際には、流れてくるごみの量が増えるほか、川の底に沈殿しているごみが巻き上がります。その際、微生物がごみの中の有機物を分解するため、水中の酸素を消費することから、水生生物が酸欠になり大量に死んでしまうといったケースも発生します。異常気象によって、突発的に河川環境が悪くなることが増えていますね。
―現場では、どのようなごみが多いのでしょうか?
高橋さん:水草や水辺に生えるアシ、流木などの植物由来のごみが最も多いです。住宅地や市街地などでは、プラスチックや缶などのポイ捨てごみが多くはなりますが、企業や生活者の意識の変化で減りつつあります。その他には、魚や動物の死骸などもありますね。
毎日のように運航する清掃船で、美しい川に
―河川清掃作業は、いつどのように行われているのでしょうか?
高橋さん:河川清掃は、日曜日と年末年始を除いて毎日行っています。厩橋分室と潮見分室の2カ所に、清掃船11隻とごみ運搬船2隻があり、曜日ごとに清掃地域を割り振って作業しています。朝に出発した清掃船によって回収されたごみは、夕方および翌日に各拠点でごみ運搬船に積み替えられたのち、中央防波堤揚陸施設に運ばれ、最終的に中防処理施設管理事務所で処分されます。環境公社職員と協力会社の作業員をあわせて約50名の体制で、この事業を支えています。
―浮遊ごみが減っているとはいえ、ほぼ毎日清掃活動を行わなければ、きれいな川は保てないのですね。
中須賀さん:特にごみが多い隅田川のような大きな河川は、ほぼ毎日実施していますが、内部河川では週2~3回のところもあります。また、通常はコンベヤと手作業の両方で回収する「コンベヤ船」で回収を行いますが、川幅の狭い河川には手作業で回収する「手作業船」で清掃を行うなど、河川の状況に応じて美しい環境が保てるように清掃計画を策定しています。
天候や潮汐に向き合いながら、臨機応変に対応
―清掃事業を進める上で、難しさやチャレンジはありますか?
高橋さん:天候や潮汐によるごみや河川への影響といった、読めない部分が大きいことでしょうか。基本的な船の運航計画は年間で決めていますが、台風や豪雨の際にはごみの発生状況によって臨機応変に変更します。また、干潮時と満潮時では約2メートルの高低差があり、川の流速も変動します。船舶が橋げたに接触する危険性もあり、安全対策の観点でも注意が必要です。こうした自然現象と向き合いながら、適切に対応していかなくてはならないのは、チャレンジと同時にやりがいでもあります。
―自然の影響を受けやすい河川での活動では、安全対策も重要ですね。
中須賀さん:熱中症、落水、コンベヤへの巻き込み、船舶での転倒など、命に関わるリスクがありますので、安全を第一に取り組んでいます。荒天や地震・津波などの災害時についてはリアルタイムで現地に一斉通知するとともに、毎月開催している安全衛生に関する会議で事故やヒヤリハット事例を共有し、事故の防止に努めています。また、河川において安全に作業を行うための情報をまとめた「安全作業手帳」を毎年更新し、定期的に研修を行っています。
今は世代交代の時期で、30年来のベテランと若手が一緒に仕事をする中で、こうした安全対策も含めたノウハウや技術の継承にも取り組んでいます。
船舶や施設を万全の状態に “縁の下の力持ち“な保守管理業務
―ほぼ毎日となる清掃活動をスムーズに行うためには、船舶や施設が万全の状態でなければなりませんね。
小林さん:メインで使用している清掃船に加え、清掃船がドック入りする期間に主に使用する予備船を保有し、体制を整えています。ただ、特に予備船を使っている時期にトラブルが起きてしまうと、清掃活動が滞るリスクがあるため、船舶のメンテナンスは非常に重要です。法で定められた検査を受けることはもちろん、それらのタイミングに合わせて大規模な修繕を計画的に実施することで船舶の状態を維持しています。
また、保守担当は、設備の維持だけではなく、作業環境の向上にも取り組んでいます。ごみ運搬船は他船と比べて大型のため、離着岸時に特別神経を使いますが、船を横方向に動かすための動力装置「サイドスラスタ」を搭載したことで、効率的かつスムーズに離岸できるようになっています。
その他にも、船舶の係留杭の潜水作業による点検、施設の貯水槽の点検、敷地内の除草・剪定の手配など、施設の状態の維持も行っています。
―まさに「縁の下の力持ち」ですね。醍醐味は、どんなところにありますか?
小林さん:船の保守・修繕は、なかなか他では経験できない専門的な分野で、そこを理解していく面白さがあります。また、計画的なメンテナンスをしていても突発的な不具合はある中で、造船所や機関整備会社など協力会社様とうまく連携しながら解決していくことにやりがいを感じています。
都民の皆さんや地域と共に、美しい川をつくっていく
―これからも河川を美しく保っていくために、どのようなことが重要になりますか?
中須賀さん:毎日浮遊ごみを回収しなければ、河川の汚染や悪臭にもつながるので、地道な清掃活動は大前提です。その上で、都民の皆さんや地域とコミュニケーションをとりながら、河川のごみの現状を知っていただき、ポイ捨てなどをさらに減らしていきたいと考えています。地域との連携としては、各地で行われるごみ清掃のボランティア活動に清掃船を出動させるなど、積極的に協力しています。川沿いの幼稚園のお子さんたちに清掃船の作業をお見せしたこともあり、次世代の環境意識の醸成にも取り組んでいます。
高橋さん:日々の清掃作業の際にも、近隣の方から「回収してくれてありがとう」と温かいお声をいただいたり、屋台船を運航する企業からも感謝を伝えていただいたりと、都民や企業の皆さんとのコミュニケーションが生まれています。
小林さん:さらに多くの皆さんに知っていただけるよう、YouTubeで河川や清掃作業の様子を発信しています。なかなか見ることができない貴重な映像なので、ぜひ見ていただきたいです。
―最後に、都民の皆さんへメッセージお願いします。
中須賀さん:東京で河川清掃活動が始まってから77年、環境公社で活動を担い始めてからちょうど40年が経ちます。これからも安全できれいな川を守っていくというミッションに向かって力を注いでいきたいです。都内の河川が水質改善され、鳥や魚が生息する親水空間となったのは、都民の皆さんの意識や行動の変化が積み重なった結果だと感じています。これからも皆さんと共にできることを積み重ね、未来に美しい川を届けていけたら嬉しいです。