環境にやさしく、体も元気に!「みんなで筋肉体操」谷本道哉先生が教えるエコ筋トレのすゝめ
「地球のために環境にいいことをしよう」。そう思いつつも、つい面倒になったり、効果が目に見えなくて続かなかったり。そんな経験、ありますよね?
でももし、ごみ拾いや自転車移動、電気をこまめに消すといった「環境アクション」が、同時に健康や体づくりにつながるとしたら。地球のためにしたことが、気づけば自分のためにもなっていたら……。ちょっとだけ、得した気分になりませんか。
そこで今回は、日常でできる環境アクションをきっかけに、運動もできちゃう仕組みを「みんなで筋肉体操」(NHK)でおなじみの順天堂大学教授・谷本道哉先生にお話を伺いました。どうすれば環境アクションを「楽しい運動」に変えられるのでしょうか? 科学的な知見も踏まえてアイデアをいただきます。
Q1. 自転車なら、移動がそのまま運動になる?
谷本先生:まずお伝えしたいのは「運動にも環境負荷がある」ということです。人間は運動によってエネルギーを消費し、その分を食べ物で補います。食べ物の元である植物や動物は、もとをたどれば光合成由来なので再生可能エネルギーです。でも、その食べ物が食卓に届くまでには、生産・輸送・調理といった過程で、多くのエネルギーが使われています。つまり、人間が体を動かすだけでも環境に負荷をかけているんです。
そのうえで、僕がおすすめしたいのは自転車での移動です。移動のエネルギー効率が断然いい。僕はもともと車が好きでいろいろと乗ってきたのですが、一人で移動するときは基本的に自転車。雨の日もレインコートを着てこいでいます。
サイクリングは心肺機能を向上させますし、生活習慣病全般のリスクを下げます。体感負荷が小さめなので長時間でも有酸素運動ができる。僕自身は「できれば筋肉もつけたい!」のでときどき猛烈にこいでます(笑)。
—サイクリングはジョギングと違って息があがらないので、運動負荷が少ないのかと思っていました。
谷本先生:自転車は着地の衝撃がないので、カロリー消費のわりにラクだと感じるんですよ。努力に対してコスパが良くて“お得”です(笑)。膝にもやさしい。そして、強く速くこげば筋肉も結構つきます。速くこぐと太ももがパンパンになるでしょう? 筋肉内に乳酸などが溜まって、浸透圧で水膨れを起こすんです。これが、筋肉を大きくする良い刺激になっているんです。
—脚がムキムキになっちゃいません……?
谷本先生:いいことじゃないですか! まあ、極度のムキムキにはそう簡単になりませんけどね。脚のシルエットにメリハリが出て「かっこいい脚」になると思ってください。基礎代謝も多少上がりますので、若干太りにくい体になるというメリットもあります。
—どれくらい自転車に乗れば効果的なのでしょうか?
谷本先生:運動の強さを表す「メッツ(※)」という指標があります。これに時間をかけたメッツ・時が、イコール運動の量になります。健康という面から言えば、生活習慣病のリスクが下がり始めるのは1週間で23メッツ・時という数字があります。1日あたりにすると3メッツ・時くらいですね。
自転車の場合、少し息が弾むくらいの強度で40分ほどこげば、自転車移動だけでこの値をクリアします。往復で考えると片道20分の自転車移動が目安です。距離でいうと6~7キロメートルぐらいでしょうか。自転車移動で目標値の半分を稼ぐなら、3キロメートルくらいですね。
メッツ(METs):身体活動の強度の単位で、安静座位時(静かに座っている状態)を1としたときと比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示したもの。出典:厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023』 (健康づくりのための身体活動基準 2013 のデータを含む)
—思ったより少ない!
谷本先生:そうですね。出かけるときに自転車を選ぶだけで、環境にやさしい行動ができ、同時に生活習慣病の予防にもつながります。
—サイクリングで効果的に筋トレをするコツはありますか?
谷本先生:椅子(サドル)に座る位置で効く筋肉が変わります。前のほうに座ると膝を伸ばす動きがメインになり、太ももの前に強く効きます。逆に少し後方に座ると、腿をうしろに振る動きに強く負荷がかかるので、お尻にも効きます。さらに、椅子を高めにすると太ももの裏のハムストリングまでしっかり鍛えられます。
下半身全体を万遍なく鍛えたいなら「サドルは高め、座る位置は後方」がいいでしょう。ロードバイクはバランスよく鍛えられるので美脚を目指す方にもおすすめですよ。
ちなみに、太もも裏も鍛えればこんな感じで力こぶのような筋肉になります!
—上腕二頭筋のようですね⁉︎
谷本先生: 脚にも力こぶはありますからね。力強い力こぶで環境にやさしくいきましょう!(笑)
Q2. 「お腹に捨てる」も食品ロス。食べ方ひとつで地球が変わる?
—環境に配慮した行動といえば、食べ物のことも大きいですよね。先生が特に気をつけていることはありますか?
谷本先生:僕が一番気にしているのは食品ロスです。食べ物を無駄にしないことはもちろんですが、僕がよく言うのは「無駄に食べることも食品ロス」。満腹にもかかわらず、無理して口にいれる行為は「お腹に捨てる」のと同じです。食べ放題は自制が効かないから危険ですよね。僕も多少は余計に食べてしまいます(笑)。
—先生にも自制が効かない瞬間があるのですね。
谷本先生:いろいろ食べられると楽しいですからね(笑)。でも、「元を取ってやろう」はやめてくださいね。地球にも、自分の体にも、お店にもやさしくないですから。命に感謝して食べるようにしましょう。
—食べ物での環境負荷を減らすために、何かできることはありますか?
谷本先生:生産者、販売者だけでなく、われわれ消費者にも調理や保存の仕方など工夫できることはあります。例えば冷凍食品を電子レンジで解凍すると、エネルギーを使います。膨大なエネルギーを使って凍らせたものを、再び膨大なエネルギーで解凍しているわけです。しかし、冷蔵庫に入れてゆっくり解凍すれば電力の節約になります。さらに、解ける融解熱が冷蔵庫内を冷やすので、凍らせたときのエネルギーを、冷蔵庫を冷やすエネルギーとして回収できるわけです。それと、「レンジで熱々にチンしたあとに、冷まして食べる」という無駄もやめたいですね。
—冷蔵庫でゆっくり解凍したほうがドリップ(解凍したときに出てくる旨味成分)の流出が防げておいしいとも聞きます。
谷本先生:そうそうそう(笑)。シーフードは流水で解凍することも多いと思いますが、基本は冷蔵庫に移して一晩以上かけて解凍するのがベストです。エネルギーも無駄にしないし、味も落ちにくいですから。
Q3. 「ついでストレッチ」で、知識と筋肉を両方育てる!
—東京都環境公社では、里山保全活動に関連して「生き物や自然について知る」ことを推奨しています。巡り巡って環境のことを考えるアクションですが、一緒にできる運動はありますか?
谷本先生:本や図鑑を開いて知識を深めるあいだにストレッチを組み合わせてみてはどうでしょうか。こんな感じに!
谷本先生:本を読みながら肩や腰をグッと伸ばすだけでも、心身をリラックスさせる副交感神経が優位になります。心がリラックスして眠りも深くなりますよ。体が柔らかい人は動脈硬化のリスクが低いという報告もありますよ。僕はお風呂上がりに毎日ストレッチをしています。これからは、この図鑑を見ながらやりますね(笑)。
—自分は体が硬いので、ストレッチに苦手意識が……。
谷本先生:何歳からでも柔らかくなりますよ! 諦めちゃダメ。1回のストレッチでも時間をかけてやると、だんだん体が柔らかくなっていきます。
—1つのストレッチに、どれくらい時間をかけると良いのでしょうか?
谷本先生:柔軟性の明確な向上効果を得るには、30秒以上とされます。ただ、結構長いので現実的には、20秒ぐらいを目安にするといいと思います。アメリカスポーツ医学会(ACSM)では、週2、3回以上の頻度を推奨しています。
Q4.ごみ捨てついでにスクワット。日常がジムに早変わり!?
—ほかに習慣化しやすい運動はありますか?
谷本先生:習慣化、いいですね。運動は習慣化が大事です。「何かをするとき“ついでに”運動をする」と決めるのはどうでしょう? 例えば、僕は階段を登るとき、残り5段は両足でジャンプすると決めています。
—すごいですね!
谷本先生:大学でもやっていますよ。階段の踊り場があるのでワンフロア上がるごとに2回ジャンプができる。こんな感じで「何かするときにこの動きをする」とあらかじめ決めておくと、日常のなかで自然と運動量が増えていきます。
例えばペットボトルのラベルを剥がしたときに、ついでにスクワットをする。ごみの分別をきちんとしたときに腕立て伏せをする、とか。
—腕立て伏せはできる場所が限られていませんか?
谷本先生:テーブルを使う方法なら、わりとどこでもできますよ。胸がしっかりつくまで下ろせばいい負荷になりますし、足を大きく後ろに引けば床でやるよりもきつくできます。ではご一緒に!
—え! 今ですか!?
谷本先生:「やるか、すぐやるか!」。筋トレの良いところは「やろう」と思った1秒後にできること。ぜひ一緒にやりましょう!
—結構キツいですね……!
谷本先生:そうそう、実は自重での筋トレも、きちんと行えばジムトレーニングと比べても効果に遜色はないんです。もちろん、ジムのほうがマシンのバリエーションが豊かというメリットはあるのですが、得られる効果としてそれほど違いはありません。
—そういえば、先生はどれくらいの時間を筋トレに費やしているのでしょうか?
谷本先生:普段は20分程度ですね。器具を使わないと鍛えにくい部位もあるのでバーベルやダンベルも使いますが、自重トレーニングも多いです。
先ほどもお話しましたが、筋トレのいいところはその場ですぐにできること。準備もいらない。なので、そのきっかけとして「環境にいいことをしたら、自分の体にもいいことをする」と決めると、習慣化ができるのではないでしょうか。ちなみに僕は、道端でごみを見つけたら拾うようにしています。
—すごいですね!?
谷本先生:いやいや……。特にレジ袋が多いですね。レジ袋が有料になり、使用量が減ったはずが、まだまだ道端に落ちているのを見ます。ポイ捨てされたレジ袋は雨風にさらされて、やがてマイクロプラスチックになります。マイクロプラスチックとは、プラスチックが紫外線などにより細かく砕けたかけらのこと。これは自然にはほぼ分解されないため、海にたどり着くと生態系に悪影響を与えます。そして汚染された魚がわれわれの口にも入る。そうなるのが嫌だなと思って、通勤途中も自転車を止めて拾っています。
レジ袋が厄介なのは風に飛ばされること。猛ダッシュで追いかけていると不思議なことに、周りの人も一緒に拾ってくれるんですよ。行動は伝染するんですかね。短い距離でもダッシュすることで息があがっていいトレーニングにもなりますし、いいことづくめです。
—いつでもどこでも筋トレはできるということでしょうか?
谷本先生:そうそう。スクワットなんてどこでもできますからね。街中で堂々とやってもいいはずなんです(笑)。
最近はリュックにスニーカー姿で、肘を曲げてウォーキングして出勤する人をよく見るようになりました。ドレスコードが変わってきたことも大きいと思いますが、世の中が健康のための運動に対して寛容になってきている気がします。もっともっと日常の活動のなかに運動を取り入れることが自然になっていくといいですよね。
—環境アクションのついでに運動する。そうすれば地球も自分もいい状態になっていくように思いました!
谷本先生:環境にいいことをすれば、自分の体も元気になる! そんなアクションを多くの方に実践していただきたいですね。
取材・執筆:嘉島唯 撮影:上村窓 イラスト:佐々木充彦
- 谷本道哉
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順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 教授、日本オリンピック委員会医科学スタッフ、日本ボディビル連盟医科学委員、日本版ナッジ・ユニットの有識者委員 兼 ナッジアンバサダー。「筋肉は裏切らない」でお馴染み、NHK「みんなで筋肉体操」の講師のほか、著書に『トレーニング科学の教科書』(岩波ジュニア新書)、『筋トレまるわかり大辞典』(ベースボールマガジン社)など。テレビなどさまざまなメディアで運動の効果をわかりやすく解説している。