東京湾でのフィールドワークを行う石井さんの写真
Interview

環境研究の現場から―
東京都環境科学研究所を
深堀り!

東京都は、「ゼロエミッション東京」の実現を目指して、気候変動対策や資源循環、生物多様性保全など様々な環境施策を行っています。環境施策を策定する上で、環境の実態や課題に関する調査研究が欠かせません。今回は、こうした調査研究を担う「東京都環境科学研究所」の皆さんにお話を伺いました。


お話をしてくれた人
石井裕一さん:環境資源・生物多様性研究科 水環境研究チーム長・主任研究員・博士(工学)/写真左
下田友理さん:研究調整課 企画調査係長/写真右
小山孝紀さん:研究調整課 企画調査係/写真中央


石井裕一さん、下田友理さん、小山孝紀さんが並んで立っている様子の写真

東京をより良い環境に!海や川の知られざる問題にも取り組む

石井さんがインタビューを受けている様子の写真
水環境研究チーム長/主任研究員の石井裕一さん

―東京都環境科学研究所では、どのような調査研究が行われているのでしょう。

下田さん:東京都の環境施策の推進や環境改善につながるよう、3つの研究科で調査研究や技術支援を行っています。「気候変動・環境エネルギー研究科」ではエネルギー・大気環境・自動車環境対策、「環境リスク研究科」では土壌汚染や化学物質、「環境資源・生物多様性研究科」では水環境・生物多様性・資源循環などを主に研究しています。このうち生物多様性については、2024年に新たに専門の研究チームを発足させました。

約30名の研究員が、東京都からの受託研究のほか、研究所独自にテーマを設定する自主研究、大学や他の調査研究機関との共同研究などに取り組んでいます(詳細はこちら)。

石井さん:例えば、私がリーダーを務める水環境研究チームでは、海域・河川・地下水などに関する研究を行っています。主なプロジェクトの一つに、東京湾の底層環境改善のための調査研究があります。東京湾は近年きれいになってはいるものの、実は海底の酸素(底層溶存酸素量)が非常に少ないという大きな問題に直面しているんです。これは、海に住む生き物の命に関わります。そこで、東京湾の底泥による酸素の消費や生物の生息状況などの実態調査を行いながら、酸素消費を抑制するための対策などを研究しています。これらの調査データや実験結果は、環境省や自治体によって定められる底層溶存酸素量のモニタリング地点の検討などにおいて、基礎データとしても活用されています。

―東京には、こうした顕在化した環境問題だけでなく、これからリスクが心配される問題も色々とありそうですね。

外来種の付着珪藻「ミズワタクチビルケイソウ」

石井さん:そうですね、例えば、外来種の付着珪藻「ミズワタクチビルケイソウ」の問題です。比較的新しい外来種ですが、東京都内の河川をはじめ、全国的な広がりが懸念されています。景観の悪化はもちろんですが、アユの忌避行動が疑われるなど生態系への影響も考えられます。

2019年から開始した調査研究では、ミズワタクチビルケイソウの生息状況や季節による変動などの実態調査を行ってきました。現在は、河川財団からの助成も受け、東京のみならず全国での調査を行っており、今後は調査マニュアルを作成して全国の自治体に配布し、各地での調査や対策に役立ててもらいたいと考えています。

フィールドと研究所を走り回る日々 研究員の思い

東京湾でのフィールドワークを行う石井さんの写真
東京湾でのフィールドワークを行う石井さん

―研究員の皆さんは、普段どのようにお仕事をされているのでしょうか。石井さんの1日を教えていただけますか?

石井さん:私の場合は、海や川でのフィールドリサーチだけでなく、学会発表や、都や省庁での委員会をはじめ専門家として外部に助言する役割もあり、研究所にいない日も多くあります。フィールドワークのときは早朝に研究所を出発し、港から船で半日ほどかけて採水・水質調査を行います。水辺の調査は危険なので、必ず2人以上のチームで行うなど安全確保にも気を配っています。研究所に戻ってからは、チームメンバーにサンプル処理や分析を進めてもらいつつ、デスクワークや研究・執筆を行います。

―お忙しい毎日ですね。そのような中で、石井さんの情熱・やりがいはどこから生まれていますか?

やはり「環境問題の解決に向けた一翼を担っている」という使命感でしょうか。今、気候変動対策と生物多様性保全という大きなテーマが注視される中で、水環境という観点から提言をしていければと思っています。生物多様性の領域では、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全することを目指す国際目標「30by30」がありますが、多様な沿岸生態系に関する科学的知見の不足などに起因して海域は目標達成が危ぶまれていることもあり、その基礎になるような調査研究を行っていきたいですね。

研究情報が必要な人に届くように 子どもたちに人気のイベントも

インタビューを受けている下田さんの写真
情報発信や研究員のサポートを行う研究調整課の下田友理さん

―調査研究を社会全体でも役立ててもらうよう、情報発信にも力を入れているそうですね。

下田さん:そうですね、心がけているのは「必要な人に必要な情報を届ける」ということです。研究者や専門家などに対しては、研究員が学会や各種研究発表会などで研究成果を発信しています。さらに、都民や事業者などより広い対象に向けては、年1回公開研究発表会を行うほか、研究成果をまとめた年報研究所ニュースなどを冊子やホームページで発信しています。ホームページは、キーワード検索ができるよう工夫しています。

―施設公開イベントも行っていると伺いました。

施設公開イベントの様子

小山さん:施設公開イベントは、研究所や研究内容を知っていただくと共に、調査研究の成果を社会に還元する目的で年1回実施しています。今年は7月に「Let’s サイエンス2025」と題して開催しました。主に小学生の親子など、1日で600名を超える参加がありました。子どもたちが自分で電気や水素を作ったり、野菜や肉等の食品からDNAを抽出したりといった体験型の楽しい企画を研究員たちが考え、研究所総出で準備しました。

今年は、特に水環境チームが企画した「ちりめんモンスター」が大人気でしたね。ちりめんじゃこに混ざっている小さな生物の中から、レアキャラ(ちりめんモンスター)を見つけるという企画で、10回くらい並んで参加する小学生もいたほどです。

石井さん:こうした幼少期の環境体験は、環境に対する倫理観の醸成や将来の職業選択にもつながるので、多くの子どもたちに水辺・水環境に興味をもってほしいと思って企画しています。実は、休日には様々な博物館を訪ねて、子ども向けのイベントをチェックしたりもしているんですよ!

東京都の施策や社会に貢献する研究所を目指して

インタビューを受けている小山さんの写真
研究調整課の小山孝紀さん

―社会に向けて効果的に発信するには、発信を担う研究調整課の皆さんと研究員の連携が欠かせませんね。

小山さん:お互い気軽に、積極的にコミュニケーションをするようにしていますね。その中で、それぞれの調査研究を、都民や事業者などどのような対象に向けて、どのように発信をするべきかを精査するようにしています。

下田さん:調査研究が社会において活用され、そして貢献できるよう、研究員とも連携しながら効果的に発信し、研究所のプレゼンスを高めていけたらと思っています。また、研究所は研究員なくしては成り立ちませんので、忙しい研究員の活動をサポートすることも日々心がけていますね。

―今後に向けて、どのようなことに力を入れていきたいですか。

石井さん:今後も「着実に正しいデータを取り続ける」という責務を果たし、東京都の環境施策や環境改善に貢献していきたいと思います。また、研究に携わる若手人材がもっと増えるよう、将来に向けた人材育成にも研究所全体で力を入れていきたいですね。