浄化槽で水環境を守ろう
「浄化槽法定検査」
下水道が整備されていない地域で、住宅や施設に設置される「浄化槽」。下水道の普及率が99.7%※1の東京では、馴染みのない方も多いかもしれません。しかし、都内でも島しょ部や山間部を中心に約17,000もの浄化槽が設置されているのです※2。そんな浄化槽をきれいに保つため、様々な地域を駆け巡りながら法定検査を行っている浄化槽検査員がいます。検査の様子やそこから見えてくることについて、東京都環境公社(以下、環境公社)技術支援部の方々に伺いました。
※1令和6年度末/出所:日本下水道協会
※2令和5年度/出所:環境省
お話をしてくれた人
大塚 貴幸さん(東京都環境公社 技術支援部技術課 浄化槽検査係長)
有賀 愼司さん(東京都環境公社 技術支援部技術課 浄化槽検査係 主任)
浄化槽ってどんな設備? 災害などで見直される価値
―浄化槽とはどのような設備で、どんなところに設置されているのでしょうか?
有賀さん:浄化槽は、トイレのし尿や台所や風呂、洗濯などの生活雑排水を、微生物の働きを利用して分解し、きれいな水にしてから川や海に放流する設備です。下水道が整備されていない地域で必要とされ、東京都内では16,946基が設置されています。伊豆諸島や小笠原諸島などの島しょ部、多摩などの山間部が中心ですが、実は23区内にも設置されているんですよ。例えば、近隣県との県境や国道沿い、海沿いなど、地理的な事情で下水道工事を行うのが難しい場所のほか、皆さんがよく訪れるような広大な公園にもあったりします。
大塚さん:下水道が整備されるのに従い、東京都全体の基数は減っています。ただし、特に島しょ部では浄化槽の設置基数が増えており、その背景には、処理後の排水水質の向上を図るため、トイレのし尿だけを処理する「単独処理浄化槽」から台所や風呂などの生活雑排水も処理できる「合併処理浄化槽」への入れ替えを国全体で進めているという事情があります。
―様々な環境や事情によって、浄化槽が必要な地域があるんですね。
大塚さん:さらに近年、浄化槽が見直されている流れもあります。地震などの災害や地盤沈下などによって、下水道が損壊してしまうと、地域全体で復旧まで非常に時間がかかります。しかし、浄化槽であれば各家庭の設備を整えれば、比較的短期間で復旧できるので、今後そうした価値が見直され増えていく可能性もあるかもしれません。
法定検査で分かるあれこれ 浄化槽をきれいに保つには?
―浄化槽には、法定検査が義務付けられていると伺いました。
大塚さん:浄化槽の管理者には、「保守点検」「清掃」「法定検査」の3つの義務が課されます。法定検査には、使用開始後の検査と、年1回の定期検査があります(詳細はこちら)。法定検査は、環境公社の浄化槽検査員が実施しています。浄化槽が適切に管理され、排水の水質が適正に保てているか確認するとともに、障害が発生している浄化槽を早期に発見し、排水・悪臭など生活への影響や河川・海への汚染を防いでいます。
―実際にどのような検査を行うのでしょうか。また、どんな問題が発見されるのでしょう。
有賀さん:まず、浄化槽の管理者である戸建ての家主や施設の管理者などから、メールや電話などでお申込みいただきます。検査員が伺い、30分程度をかけて「外観検査」「水質検査」「書類検査」を行います。都内の検査で一番多い問題は「透視度不良」です。浄化槽から出る放流水が濁って透明度が低い状態を指します。要因としては、清掃や汲み取りが適切に行われていない、処理能力を超える排出、浄化槽内の微生物の働きの低下、機器の故障などが考えられます。
浄化槽の状態は、家族構成や生活スタイルなどによって大きく影響を受けますので、管理者の方からお話を伺いながら、こうした背景をしっかり理解した上で判断やアドバイスなどを行っています。
対話から見えてくる対策 コミュニケーションを大切に
―なるほど、管理者の方とのコミュニケーションを大事にされているのですね。
有賀さん:同じ4人家族でも、中高年だけの世帯と、幼児や中高生がいる世帯だと、例えば洗濯の回数や食事に使う油の量なども違いますよね。特に油や洗剤の量は、浄化槽内の微生物に大きな影響を与えるので、生活の状況を伺うのはとても重要です。浄化槽一つひとつに特徴があるので、検査員はその背景にあるものにしっかり向き合うことを大切にしています。
―検査を通じて、改善した事例などがあれば教えてください。
大塚さん:ある新築戸建てで検査を行ったとき、居住者の方から年3回も浄化槽の清掃を行っていることや生活の様子を伺いました。トイレ清掃時に使う流せるシートが詰まりを起こしていると判断し、使用を控えるようアドバイスをしたところ、その後清掃の回数が1回に減って改善したという嬉しいご報告がありました。
また、調理後の油をしっかり前処理してからお皿や鍋などを洗うといった、良い取り組みをしている管理者の方もいます。その効果は明白で、やはり浄化槽から出る水の質がとてもいいんですね。そうした方には「二重丸ですよ!」とお声をかけると、モチベーションをさらに高めて生活してくださいますね。
―法定検査を行うことで、生活や環境にもいい状態が保てますね。皆さん、検査はしっかり受けられているのでしょうか。
大塚さん:令和6年度の検査数は5,115件に上りましたが、受検率は全体の約3割にとどまっているのが課題です。3年ほど前から普及啓発にも力を入れており、未受検の管理者様に案内チラシを送付したところ「知らなかった」などの反響があり、受検率も上がっています。
自然の豊かさを感じながら 「ありがとう」と言われる検査員のやりがい
―年間5000件を超える検査を約7名の検査員で行うのは、大変そうですね。
有賀さん:私は、八丈島・三宅島・青ヶ島・御蔵島などの島しょ部を担当し、月1回は島を訪れ毎回7~10日間ほど滞在しています。確かに忙しいですが、地域住民の方や点検業者さんなどと良い関係を築きながら、充実した日々を送っています。
大塚さん:この仕事の半分は、お客様とのコミュニケーションです。お話をしながら、改善できそうなところはどこか、どうしたら水環境を守れるかを一緒に考えられるのは、検査員の醍醐味だと感じています。また、八丈島や三宅島など海の水質が高く評価されている地域では、こうした検査の積み重ねが貢献していると捉えていただき「ありがとう」と言ってもらうこともあり、とても嬉しいですね。
仕事の傍らで島や山の大自然を満喫できるのも魅力です。空を埋め尽くす星の光がまぶしすぎて見ていられない経験は初めてでした。休養日には、島の料理や温泉も楽しんでいます。
―今後どのようなことに力を入れていきたいですか?
有賀さん:検査員の高齢化なども背景に、将来的な人材不足の課題もあります。検査員の資格取得には1年くらいかかりますが、仕事はやりがいも大きいので、ぜひ多くの方に関心を持っていただければ嬉しいです。他県の検査機関では、女性の検査員も活躍されていると聞いています。
大塚さん:経験豊富な検査員から技術を継承していくことも重要なので、勉強会などを積極的に行いながら、検査員の総合的な能力向上に取り組んでいきたいと考えています。技術や知識だけでなく、お客様とのコミュニケーションを通じたより良い提案の仕方など、文字にはしきれない経験値も含めてしっかり引き継いでいきたいですね。
―最後に、都民の皆さんへメッセージお願いします。
大塚さん:浄化槽の法定検査は、皆さんの生活における安心・安全と共に、水環境を守るための大切なものです。今後も、都民の皆さんと手を取り合って、東京の水環境を守っていけたら嬉しいです。