Column/Essay

ごみを捨てた先に「人」がいる。清掃員として働くマシンガンズ・滝沢秀一さんが伝える、未来のためにできること

お笑いコンビ・マシンガンズの滝沢秀一さんは、芸能活動をしながら清掃員としても働いています。 SNSや本の出版、イベント登壇などを通して、ごみ問題についての啓発活動にも取り組んでいます。

「ごみ問題はリスペクトで解決する」と話す滝沢さん。わたしたちのくらしから子供たちの未来を想像することを促しています。清掃員の仕事を通じて気付いたことから、滝沢さん自身がごみを減らすためにしている日々の工夫とは?

「日本はごみで埋まる!?︎」清掃員を始めて知った驚きの量

清掃員の仕事を始めたきっかけはただ、お金のためでした。僕が36歳のときに妻が妊娠して、アルバイトをしようと思い、そんな中偶然出会ったのが、清掃員でした。環境やごみ問題なんて、考えたこともなかった。だから、ごみの世界を知って本当に驚きました。

1日の仕事としては、だいたい朝5時ぐらいに起きて6時半出社、8時から回収、昼休憩を挟んで、午後にまた2回、回収へ。清掃会社に帰ってくるのが夕方4時ぐらいです。可燃ごみの日もあれば資源の日もあり、その日によって内容は全然違います。

イメージ写真 / Shutterstock

まず、ごみの量に驚きましたね。45Lの袋を1人1袋出すとしたら、まち全体ではとんでもない量になります。清掃員になる前は、2トンのパッカー車を1回満杯にすれば1日の仕事は終わりだと思っていました。実際は、ごみを収集して、清掃工場に行って廃棄して、また回収に行く…というのを6回は繰り返します。単純計算で10トンから12トンほど回収している。さらに東京全体で、日本全体で、と考えると、一体どれだけのごみが出ているのだろうと思いました。

ベテラン清掃員に、冗談で「日本ってごみで埋まらないんですか」と言ったら、「埋まるに決まってんだろう!」と言われました。それが、ごみについてちゃんと考えなければいけないと思ったきっかけです。

僕は「日本一の清掃員になる」と決めました。というのも人間は贅沢なもので、2〜3年も経つと仕事が次第に嫌になってくる。きちんとごみが分別されていないと腹が立つし、「朝に回収に来ない、この税金泥棒!」といわれのない言葉を投げつけられることもよくありました。本当はお笑いがやりたいのに、売れないなと思いながらごみを回収するのってつらい。

同期にサンドウィッチマンがいます。彼らの活躍をみて「よし、彼らがお笑いの日本一なら、俺は日本一のごみ清掃員になろう」と思いました。

では、日本一のごみ清掃員とは何だ?と考えたとき、分別などのルールを知らない人に知ってもらうことが大事だろうと思いました。ルールを知らずにごみを出している人は、知ればやってくれるはず。まず、その人たちに伝えたいと、SNSで発信するようになりました。

滝沢さんはXなどのSNSで、ごみの正しい分別や、ごみ問題について日々発信。大きな反響をよんでいます。 / Xの投稿より

ごみは誰かの手で回収されている。まず「知ること」が大事

例えば、ペットボトルのキャップが外れていなければ、僕らが1個ずつ外しています。キャップが付いていると潰れず場所を取るので、清掃車に積みきれなくなってしまうからです。回収されたペットボトルは工場に運ばれたあとベルトコンベアで流され、シャンプーの容器などの異物が混じっていたら作業員が手で取り除かなくてはなりせん。そういった「分別間違い」が大量に流れてきます(※)。

分別・回収方法は区市町村によって異なります。所在の区市町村のホームページ等でご確認ください。

Shutterstock

なぜ人の手を使って分けるのかというと、リサイクルは同じ種類のものでしかできないからです。さらに、きれいでなければいけません。

汚れているものや異物が混入していたら取り除かないと、リサイクルできず捨てることになってしまいます。例えば、弁当の空き容器で油まみれのものはほかのプラスチックも汚してしまう。

また、ペットボトル、びん、缶、プラスチック、どのリサイクル工場の方に聞いても「一番困るのは中身入り」だと話していました。そして、ごみの一番怖いところは、回収する側からすると何が入っているかわからないことです。ペットボトルに液体が入っていても「水かジュースの飲み残しでしょう」と思うかもしれませんが、農薬が入っていた事例もあります。

自分の経験として、ごみ袋を持ち上げた瞬間に包丁が飛び出してきたことがあります。 先日もごみ袋を回収した際にチキンに付ける辛い粉のようなものが舞い、目に入った同僚の清掃員が「痛い!」と叫び声を上げていました。

僕たちは、中身が何かわからない恐怖と対峙しながら回収しています。「捨てたらそれで終わり」ではなくて、誰かが回収しているって想像してほしいと思います。

「生ごみの汁を一回しぼってくれると助かります」とのコメントが添えられ、SNSで紹介された写真 / Xの投稿より

「資源ごみ」はごみではない。責任を持って次の世代に渡すために

ペットボトルや缶、古紙などリサイクル可能なものは「資源」と呼ばれますが、僕が清掃員を始めたころ、「資源ごみ」と言うと怒られました。

「資源」であって「ごみではない」ということです。可燃ごみは焼却されて灰になったあと、焼却灰を埋める処分場に運ばれますが、びんやペットボトルなどは、処分場に行きません。きれいなものはペットボトルからペットボトルに、びんは路面材や再びびんになります。

回収された使用済みペットボトルは洗浄・破砕などを経て、リサイクル原料へと再生する。※写真はイメージです / Shutterstock

日本全国の最終処分場の残余年数の平均は、二十数年と言われています。いろいろ手立てはあるのかもしれませんが、最終的な決定はされていません。最終処分場の延命化のために、資源はしっかり再利用することが必要です。

ここで、我々が何も考えなければ、次の世代に「前の世代は何やってたんだ」と言われてしまいます。

成り立ちや課題、そして今しなくてはならないことを知って、責任を持って次の世代に渡すということが一番大事なことだと思っています。

ちょっとしたことでいい。捨て方そのものを変えてみる

清掃員をしていると、洋服が束で捨てられているのを、年末年始や引っ越しシーズンに限らず見かけます。そうしないためにも、僕は洋服のレンタルサービスを利用しています。費用は月8,000円ほどで、コーディネーターとやりとりした上で上着3着・ズボン1着を毎月送ってきてくれます。職業柄、洋服が溜まりやすいのが苦痛だったので、タンスが圧迫されないのが心地いいですね。  

ごみを減らしたいとは思うけど、便利だから消耗品を使ってしまう気持ちもわかる。子育てをしているとき、たとえばウェットティッシュなどは必須アイテムでした。

それでもできることはあって、ちょっとしたことでいいと思います。例えば、みかんの皮。一晩乾かすだけでも、水分が抜けていると助かります。また、マイボトル。1日1本ペットボトルを減らせば、1年で365本も削減できます。紙を資源に回すだけでもごみが減ります。

ごみ箱に捨てた瞬間「忘却スイッチ」が入って、何を捨てたのか自分でもわからなくなってしまいます。なので、一度自分が出したごみをあらためて見てみるといいかもしれません。

どうしたらごみが減るか考える楽しさもあります。子どもの洋服はすぐサイズアウトしますが、「ご自由にどうぞ」と家の前に置いておくと本当になくなります。人に譲れないほどボロボロになったものは雑巾として活用できます。

僕はコンポストを使っているので、生ごみが出ません。だからごみ出しの回数が少ない。雑に捨てているとごみも臭くて、不快だったり、ストレスになったりする。それがないのは快適です。地域で共同コンポストを利用できる自治体もあると聞きます。ひとりでも、みんなとでもどちらもとても良いと思います。

捨て方そのものを変えるということも、大事かと思います。

肉や魚のトレイは、リサイクルのためスーパーに持っていくそうです。 / Xの投稿より

「ごみ問題はリスペクトで解決する」見えないものに思いやりと想像力を

「リデュース(減らす)、リユース(繰り返し使う)、リサイクル(再利用)」に「リスペクト(敬意)」をプラスした「4R」の提案をしています。リスペクトの気持ち、つまり思いやりがあれば、ごみ問題は解決すると思っているんです。

先ほど触れた洋服もそうですが、洋服の成り立ちを考えることはあまりないですよね。値段が安いという理由で買うと雑に扱ってしまうことがある。でも本当に気に入っていたり、思い入れがあったりすると、大事にすると思います。

食品も同様です。たとえば、1個しか減っていないパック売りの卵や、丸ごとのキャベツが捨てられている光景をよく見ます。秋になるとお米もたくさん捨てられる。僕の祖父母は新潟で農家をしていたので、膝が痛い、腰が痛いと言いながら米を育てている姿を見ていました。だから新潟産の米が捨てられていると、それを直接つくっていなくても祖父母の顔が浮かぶ。

そんな現状は、ものや食べ物に対して、リスペクトがあるようには思えません。作り手や生産者の「顔」が見えない社会がつくられていると感じます。

また、僕はものに価値を与えることが、リスペクトの気持ちを持つ一つ一つのきっかけになるのだと思います。

ポジティブな変化のひとつとして、レジ袋が有料化されて、これまで集積場に散乱していたレジ袋を見なくなりました。これは、2円でも3円でもお金を払っているから、最後までごみ袋として使ったり、そもそももらわらなくなったりしたからだと考えています。

見えないものに対して思いやりを持つということが、成熟した大人なのかなと思います。包丁をそのまま袋に入れて捨てる人がいると言いましたが、人に対するリスペクトがあれば、誰かが危険にさらされるかもしれないと想像できると思います。

子どもたちの未来も、目に見えるものではなく想像するものです。わたしたちのくらしが、子どもたちの未来にどう影響するか。想像できるかどうかだと考えています。

滝沢秀一
お笑い芸人兼ごみ清掃員

1976年、東京都出身。東京成徳大学在学中の1998年、西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2012年、妻の妊娠を機に、ごみ収集会社で働きはじめる。ごみ収集の体験をもとにSNSや執筆、講演会などで発信し話題に。
2018年、エッセイ『このゴミは収集できません』(白夜書房)を上梓したあと、漫画『ゴミ清掃員の日常」(講談社)、『ごみ育』(太田出版)など現在までに15冊出版。
2020年10月、環境省『サステナビリティ広報大使』に就任。
2023年5月、コンビとしてフジテレビ『THE SECOND~漫才トーナメント~』にて準優勝。