東京都環境科学研究所

水環境

東京湾や河川の環境改善のため、沿岸域に生息する水生生物の生息実態把握、水質浄化や環境修復技術の効果検証、衛生指標細菌の分布と発生源推定などに関する研究を行っています。そのほかに、都内の地下水の流動実態把握や揚水の影響に関する調査研究などを行っています。

主要研究課題

1.沿岸域生態系を活用した水質浄化に関する研究

 東京湾に流入する窒素やりんなどの栄養塩類の負荷量は、下水道の整備や事業場の排水規制など様々な取り組みにより減少してきましたが、東京湾での赤潮の発生は夏季において継続しています。沿岸域で見られる水生生物にはヨシや二枚貝といった、栄養塩の貯留や取り込みを行うことで水質浄化に寄与するものがあります。こうした生態系の機能を活用した水質浄化に着目し、東京湾のさらなる水環境の改善に向けた調査・研究を行っています。


2.都内河川における衛生指標細菌の発生源の推定に関する研究

 東京都内では、下水道の普及に伴い河川の水質環境の改善が進み、有機汚濁の指標であるBOD(生物化学的酸素要求量)の環境基準達成率はほぼ100%となっています。

その一方で、ふん便汚染の指標である大腸菌群数については基準値を超過する河川が散見され、その原因究明が課題となっています。近年、より指標性の高い大腸菌の測定方法が確立されました。この新しい測定方法を取り入れ、河川の大腸菌等の衛生指標細菌の発生源の推定に取り組んでいます。

特定酵素基質培地による大腸菌の測定


3.東京における地下水の実態把握に関する研究

揚水と地盤の影響予測

 地下水は砂の地層(帯水層)から汲み上げられます。地下水を汲み上げ過ぎると帯水層の上下に堆積している粘土の地層(難透水層)から帯水層に向かって水が絞り出されます。難透水層は水を絞り出しながら縮んでいきますが、初期には水位が回復したら元に戻るような状態(弾性変形)を保っています。しかし、一定以上地下水位が下がると、水位が回復しても地盤が縮んだままの状態(塑性変形)になり、地盤沈下を起こしてしまいます。

当研究所では、東京大学と共同研究を行い、地下水位と地盤変動量の観測データを用いて地下水位と地盤変動量の関係の予測モデルの構築に取り組んでいます。

地下水流動に関する研究

 東京では、過去に甚大な地盤沈下を経験しましたが、揚水規制の効果により現在は沈静化しています。

一方、災害時利用等、地下水の社会的ニーズは多様化しており、持続可能な地下水の保全と利用を推進するためには、地下水の流動状況の把握が求められています。また、東京の地下は、多様な地質構造をしており、地下水流動は非常に複雑であると言われています。

そこで、筑波大学と共同研究を行い、水文学的アプローチから地下水流動系の解明に取り組んでいます。


4.溶存有機物を活用した新たな環境水モニタリング手法の検討

 近年、環境水中の溶存有機物を蛍光分光光度法で簡便に、精度良く測定することができるようになりました。溶存有機物は、東京都の温泉に用いられている黒水などの着色水に多く含まれ、複雑な地下水流動を解明する上で、有用な指標となる可能性があります。また、河川等の水質を、溶存有機物を活用して評価することも有効と考えられます。このため、地下水や河川水等の溶存有機物を調査し、地下水のつながりや河川環境の把握に取り組んでいます。


5.外来大型付着珪藻の生息状況に関する実態調査

 河川には藻類や水生昆虫や魚など様々な生物が生息しています。しかし、元々は日本に生息していなかった外来種と言われる生物が入り込み定着してしまうことで、その地域に住む在来の生物の生息環境を壊してしまうといった可能性が懸念されています。本調査では、北米原産の大型付着珪藻で、外来種であるミズワタクチビルケイソウ(Cymbella janischii)について多摩川で現場踏査を行い、当該種の繁茂の実態の把握に向けた調査を行っています。


6.東京湾に流入するマイクロプラスチックの実態調査

 近年、プラスチックによる海洋汚染が注目を集め、その中でもマイクロプラスチックと呼ばれる 5mm 以下の微小なプラスチック片の環境中での分布や、マイクロプラスチックに吸着している化学物質に関する研究が盛んに行われています。海域については先行的に研究が行われてきましたが、陸域から海域へのマイクロプラスチックの主要な流入経路と考えられる河川については調査・研究事例は多くはなく、調査方法も定められていない状況です。そのため、河川での適正なマイクロプラスチック調査方法の検討を行いつつ、都内の主要河川のひとつである荒川を対象に、マイクロプラスチックの東京湾への流入実態に関する調査を進めています。


7.インデックスマッチングによる地下水揚水に伴う地盤収縮挙動の可視化

 インデックスマッチングとは、光の屈折率が同じ粒状体と液体による透明な飽和(粒状体同士の間隙が液体で満たされている)模擬地盤に外力をかけて、地盤の中で変形が起こる様子を可視化する実験手法で、揚水に伴う地盤沈下現象を研究する手法として活用しています。帯水層(珪砂)と難透水層(ポリマーと水による模擬地盤)による飽和二層地盤(写真上)を作り、帯水層から水を汲み上げ、難透水層が帯水層に向かって水を絞り出しながら変形していく様子(地盤沈下)を撮影します(写真下)。この画像の解析による変形の可視化画像と沈下変形の数値解析結果との比較研究を行いながら高精度沈下解析手法の開発を目指しています。

飽和二層模型地盤
硅砂の中にある水を汲み上げ続けて、模型地盤の水が絞り出される地盤沈下現象を2台のカメラで撮影する。

8. 里海里湖流域圏が形成する生物生息環境と生態系サービスに関する検討

 干潟や藻場などの沿岸浅海域の生態系サービスのひとつであるブルーカーボン(海洋生態系に貯留される炭素)が、地球温暖化の緩和策として注目されています。ブルーカーボンは、これまで亜熱帯域のマングローブ林やサンゴ群落など比較的寿命が長い生態系を対象に研究が進められてきましたが、温帯域についてはまだまだ未解明な部分が多いのが現状です。そのため、干潟や藻場などの温帯域の短寿命生態系が持つ炭素貯留ポテンシャルの解明に向けて、室内実験等により、各種生物の炭素貯留原単位の推定を行っています。

本研究は地方環境研究所と国立環境研究所との共同研究(Ⅱ型共同研究)の枠組みを活用し、国や他自治体の研究機関と連携・協力し、進めています。

技術支援

1.水生生物調査研修

 都及び区市町村の職員を対象として当該研修を年2回実施しています。座学では水生生物の分類や生物種による水質判定などの知識に加え、調査の手順、河川内での安全な作業のための注意事項について説明を行います。実習では都内河川において、水生生物の生息場所の説明や採取方法、現場記録の方法等、調査で必要な技術を実際に体験します。研修により水生生物調査の理解を深めることで都及び区市町村の職員が水環境に関する知識及び技術を継承し、環境行政を円滑に執行するための支援を行っています。