東京都環境科学研究所

評価結果 H30-1-9

平成30年度外部研究評価委員会 継続研究の中間・事前評価結果

研究テーマ
東京都におけるヒートアイランド現象等の実態に関する研究
研究期間 平成28年度~平成30年度
研究目的 東京ではヒートアイランド現象と地球温暖化の進行によって、過去100年の間に平均気温が約3℃上昇しており今後その影響が種々の方面に出現することが予想されている。この進行しつつあるヒートアイランド現象等の影響を確実に把握し都の施策に反映させるため、都におけるヒートアイランド現象に関する最新の現状を観測結果等により見直すことを目的とする。
研究内容
  • (1) 密集住宅地基礎調査
  • (2) ヒートアイランド対策に資する省エネ技術の研究(空調用室外機の顕熱抑制に関する調査)
  • (3) ヒートアイランドに関する情報収集
  • (4) 気候変動影響に関する情報収集
H29中間評価 A1名、B5名
H29評価コメント及び対応
  • この研究は必要であり、その意義は認める。
  • 住宅密集地において暑熱環境計測を実施し、温度だけではなく湿度の増加が熱中症発症に影響すること明らかにしたことは、有用な知見であると評価される。
  • 計測の面倒な木密地域における屋内外の温熱環境変化を明らかにするとともに、共同研究先との外部発表を積極的に進められていることは、高く評価できる。
  • 研究テーマと実際に行った研究内容とが多少ミスマッチな感はするが、東京のヒートアイランド研究は2020年のオリンピックを控えて大変重要な課題であり、継続して研究を進める必要がある。
    研究成果に関して、学会発表や年報報告以外に海外ジャーナルを含む査読付き学会誌に論文を投稿し掲載された点は高く評価できる。
    各種測器やシミュレーションにより、木造住宅密集地における暑熱環境の実態把握と暑熱対策に関して一定の成果を出した点は評価できる。
  • 都市のヒートアイランド現象は重要な課題であり、東京都としての実態データを蓄積することは、今後の行政施策にとって意義があり、評価できる。木造密集地域において実施した熱流体モデルによるシミュレーションは、対策の効果を推定するツールとして期待できる。
  • 30年度にかけて、木造密集地域に焦点をすえた調査が問題点の鮮明化に大きく寄与すると思われる。木密地域に熱中症搬送者が多く発生するという分析などにつながっているのが良い。
  • 環境調査やシミュレーションはそれ自体に意義があるが、熱中症発生は環境よりも年齢構成、生活様式、さらにおそらくは所得水準などに支配されていると推測され、本研究が貢献できることには限界がある。皮肉めいているが、そのことが示せれば研究は成功と言えるのかもしれない。
  • すでに、都内マラソンコース沿いの暑熱環境に関しては海外ジャーナルに成果が発表されているが、その他の競技会場と周辺地域の熱環境実測や暑熱対策の提言等も期待したい。
  • この研究結果がどのような形で行政に行かされるのか、私には見えてこない。
    熱中症で搬送された人の年齢、性別、病歴などの個人の情報に加えて、その時の室内の様子、例えば温度、湿度などの情報を解析したほうが、より良い行政上の指標になると思う。
  • 個人情報の問題や倫理的な問題により取得できるデータは限られておりますが、今後も限られた調査データから熱中症対策に資する科学的知見を得られるよう工夫いたします。
  • 暑熱環境シミュレーションによりドライミスト散布の効果が有効とされているが、体感温度と風速の2次元分布では分かりにくいように思われる。より定量的な効果が示されるように結果の表示を工夫して頂きたい。
  • 2次元分布による定性的な評価だけでなく、今後はグラフ化等により、シミュレーション結果のより定量的な評価に努めます。
  • 居住者の生活状況に対する分析があると、熱中症対策としての情報価値が高まるのではないかと思う。
  • 今後は、居住者の生活状況についてアンケート調査を行い他研究機関とも協力して可能な限り分析してく予定です。
  • 暑熱対策のシミュレーションは学術的には興味深くとも、非現実的な条件での分析になっているので、より現実に近づけた分析に期待する。
  • H29は理想的なケースでシミュレーションを実施しましたが、今後は空調用室外機の設置台数やミスト噴霧量などについて、より現実に近い条件を検討し、シミュレーションを実施したいと考えております。
  • 全体として研究テーマが広がりすぎてしまったために、研究の焦点が不明瞭になったのではないかと危惧する。密集住宅地での環境計測も重要ではあるが、2020年オリンピックに向けて都内各地域での暑熱対策に関して、多地点での定点気象観測とシミュレーションを組み合わせた定量的・客観的な研究に取り組んでほしい。
  • 多地点での定点気象観測とシミュレーションを組み合わせた定量的・客観的な調査も視野に入れ、できるだけ焦点を明瞭にしたうえで研究に取り組んでまいりたいと思います。
  • 個別住宅のエアコン室外機へのミスト噴霧装置のコストと地域のヒートアイランド現象対策効果との関係をどのように評価するのか、例えば、熱中症搬送者に要する医療費の削減効果として算定するのか。
  • 現在のところ、対策効果を定量的に算出するところまで至っておりませんが、今後は、シミュレーション結果や計測データの解析から、暑熱対策の費用対効果の評価も視野に入れて研究を行いたいと思います。
H30事前評価 A1名、B4名、C1名
H30評価コメント及び対応
  • オリンピックを控え、この研究の成果が実際に応用され効果を発揮することが期待される。
  • 高齢者の熱中症発症と暑熱環境の関連を調べること、および暑熱対策実施の経済効果を調べることは大変有意義であると思われる。
  • 熱中症が多発する地域に対する屋内外の温熱環境変化の調査が、適切な手段で計画されている。
  • 引き続き都内におけるヒートアイランドに現状把握、原因究明、影響等に関して取り組む点で評価できる。
  • 暑熱対策の効果検証のため、人の流れの変化調査は、実効性が期待される。
  • 3年計画の木密地区調査を積み上げることで有意義な資料が得られると期待され、調査の労は大きいであろうが敬意を表する。H29実績評価のところでふれたが、気温・湿度など自然的環境項目と併せて地域住民層の特性をあぶり出すような分析も期待する。
    (同じ区内でも平均的に木密と高層マンションの室内環境が異なると推測され、それが熱中症発生の差-(があるとすれば)-を生んでいるのであろう。)
  • 緑化による暑熱環境改善効果の定量化は大事な指標になるが、果たして電力消費量の差だけで説明できるのか。ほかのパラメーターも変化するので。
  • この点につきましては、実地計測と平行して緑による冷却効果も扱うことのできる熱流体シミュレーションを行うことで、緑の量の変化による暑熱環境への影響を定量的に評価する予定です。
  • 一口に高齢者と言っても、例えば持病の有無、一人暮らしかどうかなど様々な特性が考えられると思われるので、得られた結果の解析には工夫が必要とも考えられる。また、人の流れの変化の把握と暑熱対策効果との関係が若干分かりにくい。
  • 個人情報の問題や倫理的な問題で持病有無の把握やバイタルセンサによる生体情報の取得は困難であるため、限られた調査データから熱中症対策に資する情報を得るための工夫をしてまいります。
    一方、人の流れの変化の把握と暑熱対策効果との関係については、暑熱対策を実施することによる人の流れの変化を把握することで、それに付随する周辺商業施設への集客効果を検討しようとするものです。
  • 木密地域に対する熱中症対策が、エアコン室外機排熱の潜熱化しか考慮されておらず、不十分だと思う。
  • 木密における暑熱対策につきましては、これまでの調査結果から、空調用室外機の排熱の潜熱化のほか、家屋の屋根材の変更や断熱性・気密性の強化、エアコンによる除湿・昇温抑制、道路拡幅等による風通しの確保などが、ハード面の対策として有効であると考えられており、今後はこれらも考慮に入れてシミュレーションを行たいと考えております。
  • 暑熱対策による経済効果等の調査を都環研が行うべき理由が理解できない。この研究は企業、大学に任せ、木密地域の熱中症対策考察に全力投入された方が良いのではと感じる。
  • 暑熱対策による経済効果等の調査は都施策の効果検証と今後の民間事業者による対策推進を視野に入れたもので、都政ニーズに応えた研究であると考えております。
  • 中間評価でも記したが、最終年度でもあり、研究テーマを絞って、これまで蓄積したデータのさらなる分析・検討と、2020年オリンピックに向けた暑熱環境の地域別実態把握を中心に研究をおこなうことが望ましいと思われる。
    暑熱対策による経済効果等調査は、上記の研究成果が出た後に行うべき課題と考える。
  • 木密の暑熱環境調査については、今夏も新たに実地計測等を行うとともに、これまでに蓄積したデータのさらなる分析を行ってまいります。また、暑熱対策による経済効果等の調査は、都施策の効果検証と今後の民間事業者による対策推進を視野に入れたもので都政ニーズに応えた研究であると考えております。
  • 住宅密集地での暑熱環境測定については、個別の住居での高齢者の熱中症発生率と結びつけることができるのか、疑問である。
  • これまでの暑熱環境計測結果から、家屋の屋根材の変更や断熱性・気密性の強化、エアコンによる除湿・昇温抑制、道路拡幅等による風通しの確保などが有効であると考えられます。個人情報の問題や倫理的な問題から、これまで、高齢者の熱中症発生をダイレクトに評価する調査結果は得られておらず、今後の課題です。
  • 「暑熱対策の経済効果」とは何なのか? 「経済地区における暑熱対策の効果」とでも呼ぶ方が的確なのではないか。
  • 暑熱対策の経済効果とは、暑熱対策を実施することによる人の流れの変化とそれに付随する周辺商業施設への集客効果等であると考えております。また、「経済地区における暑熱対策の効果」のように、より的確な表現を心がけたいと思います。