東京都環境科学研究所

水素蓄電を活用したまちづくりに向けた調査(2016-2018年度)

 

平成31年度外部研究評価委員会 終了研究の事後評価結果

研究テーマ
水素蓄電を活用したまちづくりに向けた調査
研究期間 2016年度~2018年度
研究目的 遠隔地の再生可能エネルギー由来のCO2フリー水素の利活用や、水素エネルギーマネジメント構築に向けた課題を整理し、解決策を示すことで、まちづくりにおけるCO2フリー水素の活用を目指す。
研究内容
  • (1) 都内でのCO2フリー水素利活用に向けた検討調査
  • (2) 水素エネルギーマネジメント構築に向けた調査
2018事後評価 A 1名、B 5名
評価コメント及び対応
  • 水素貯蔵・発電のシミュレーションコードを開発して、再エネ水素導入のケーススタディから、再エネ水素を考慮したまちづくりのポイントを定量的に明らかにし、外部発表も積極的に行われている点は評価できる。
 
  • 本シミュレーションは系統電力の削減を目的としたものなので、熱利用も含めたベストミックスの再エネ利用の評価になっていない点が、現実から少し離れているのではと思われる。
  • 今回のシミュレーションでは「系統電力の削減」を目的関数としましたが、発電所の発電体系を含めたエネルギーの削減などについても検討していく予定です。また、燃料電池の排熱利用の効果に関しても、試算の対象に含めるようにします。
    目的関数は「CO2排出量ミニマム」ですが、本研究では動作時だけを考慮しているため、CO2排出は系統電力のみになり、「系統電力ミニマム」と同等になりました。シミュレータでは、燃料電池からの排熱は計算しています。しかし、燃料電池の効率が60%以上と高く、動作温度が80℃前後と低いため、給湯以外に有効利用できる熱源になりません。そこで、シミュレータでは排熱量と60℃の給湯量の計算のみに留めました。
 
  • 本研究で開発されたシミュレータを用いて水素蓄電システムの課題および有効性についてわかりやすく整理されており、今後の発展が期待される。システムの評価に関しては電力料金だけではなく、二酸化炭素削減量の費用対効果という観点からも行われることが望まれる。
  • CO2削減量に係る費用対効果に関して試算したところ、中期的(2030年頃)な推計では、現在のCO2排出量の取引価格(EUや都の制度と比較)に対して1桁以上高い結果が得られ、CO2排出削減の価値が大きく変わらない限りは、水素蓄電の自立的普及への課題が大きいものと考えられました。
 
  • 将来的なエネルギー環境変化への先駆的調査研究として、この段階で着手され、種々の検討を模索されたことは意義があったと思う。
  • CO2フリー水素や低CO2型水素の利用にあたり、水素蓄電エネマネシミュレータによる検討などを実施、また、水素の貯蔵・輸送手段としてのMCHについても検討し、技術面、コスト面から課題を明らかにしたことは評価できる。短期的な実用化は困難で、実証試験はPRの場として行うことを含め、中長期的な視野で水素活用のイメージを示した。
 
  • 水素利用拡大の期待要因の一つとしてFCVの普及拡大を挙げているが、EVの普及が急速に進む中、実現性は高くないのではないか。
  • 昨今の自動車技術会「次世代自動車動力システム特設委員会」の報告においては、FCVの普及に関しては厳しい判断が示されたところですが、本年3月の国の新たな「水素・燃料電池ロードマップ」では、FCVの普及に向けた基盤技術のスペックやコスト内訳の目標を示し、達成に向けた必要な取組を規定するなど、今後の普及拡大に向けた施策が継続されているところです。また、EVに関しては世界的な普及拡大の流れがありますが、国内での普及拡大に向けては未だ課題も多く残るとともに、EVとFCVの普及のターゲットには棲み分けもあるものと考えています。
    このようなこととともに、許容される燃料価格や建築設備等での利活用へのハードルがより高いことより、水素利用の初期需要の創出に関しては、FCV普及を挙げています。
 
  • 基本的に水素をエネルギーに使うことに疑問がある。水素は2次エネルギーである。
  • 本調査研究においては、水素エネルギーの都内での利活用に向けて調査等を開始しましたが、検討を進める中で、当研究所において、水素をエネルギーとして利用することの可否を判断することは難しいと考えています。国レベルでは、海外からの輸入水素の発電利用等の実証研究等も実施されていますが、当所では、都の研究機関としての役割を踏まえ、都への適切な情報提供に努めていきます。
    本研究においては、水素蓄電を蓄電池と同様の電力貯蔵の一手法と考えています。蓄電池と比較した場合のメリットやデメリットを評価するためのツールとしてシミュレータを開発しましたので、今後、本シミュレータを用いて解析し、利害得失を明らかにしていきたいと考えています。
 
  • 例えば風力発電での電気で水素を作り、足りないときにはFCで電気を発生させることが疑問である。なぜ、ここに水素を介入させねばならないのか。
  • 水素蓄電(水素製造、貯蔵、FCでの発電)に関しては、再エネに余剰が発生した場合の余剰電力の有効利用の手法の可能性について検討を行ったものです。
    現在収集した情報の範囲で、蓄電池技術を比較対象としながら検討を行った結果からは、中長期的な視点に立つと、水素蓄電技術の活用の可能性は否定されないものと考えています。
 
  • 島しょにおける再エネ由来水素蓄電システムの導入は、環境負荷の低減効果が見込まれるため評価できる。
 
  • 「水素蓄電を活用したまちづくりに向けた調査」という研究テーマは、あまりに漠然としていて具体性に乏しい。もう少しテーマを絞って、例えば、「東京島しょにおける再エネ由来水素蓄電システム導入に関する実証研究」とでもしてはどうか。
  • これまでの研究により、検討の対象が絞られてきているため、今後のテーマ名については、都と調整していきます。