東京都環境科学研究所

東京都におけるヒートアイランド現象等の実態に関する研究(2016-2018年度)

 

平成31年度外部研究評価委員会 終了研究の事後評価結果

研究テーマ
東京都におけるヒートアイランド現象等の実態に関する研究
研究期間 2016年度~2018年度
研究目的 東京ではヒートアイランド現象と地球温暖化の進行によって、過去100年の間に平均気温が約3℃上昇しており今後その影響が種々の方面に出現することが予想されている。この進行しつつあるヒートアイランド現象等の影響を確実に把握し都の施策に反映させるため、都におけるヒートアイランド現象に関する最新の現状を観測結果等により見直すことを目的とする。
研究内容
    • (1)密集住宅地基礎調査
    • (2)ヒートアイランド対策に資する省エネ技術の研究(空調用室外機の顕熱抑制に関する調査)
    • (3)ヒートアイランドに関する情報収集
    • (4)気候変動影響に関する情報収集

 

 

2018事後評価 A 1名、B 5名
評価コメント及び対応
  • 都区部の密集住宅地における暑熱環境に着目し、その実態把握と暑熱環境改善について継続的な調査を実施した点は評価できる。
  • 研究成果を査読付き学術誌に公表したことは評価できる。
 
  • 都区部の暑熱環境の実態把握に際して、いきなり上空からの赤外熱画像を指標にするのは疑問である。既存研究などを参照して、都内の気温分布やその日変化等をきちんと把握した上で、熱画像の解析を行うべきである。
  • 暑さの要因について、地表からの赤外放射を過大評価し、人工排熱について言及していないのは疑問である。真夏炎天下で赤外放射が800~900W/m2としているが、地表面の材質(コンクリート・アスファルトと草地・裸地)による差異をどう評価するのか。また、地面からの赤外放射が太陽放射(日射)とほぼ等しいとしている点は疑問である。上空からのヘリ搭載サーモカメラの表面温度からステファンボルツマンの法則に基づいて求めたのであれば、その旨記載すべきである。
  • ご指摘のとおり、例えばMETROS観測データを用いた既存研究を参照し、都区部外周部で夏季日中の気温が高くなることを把握したうえで、熱画像の解析を行いました。
    本研究では最初に赤外放射量に着目して都区部の暑熱環境の調査を行いましたが、ご指摘の人工排熱も暑熱化に大きな影響を及ぼしており、今後の重要な研究課題の一つであると考えています。なお、アスファルトで覆われた街中の炎天下における地面及び壁面からの赤外放射量が太陽放射量と同程度であることは国の機関による試算です。また、ご指摘のように、赤外放射量はステファンボルツマンの法則に基づき算出しており、「赤外放射量は表面温度の4乗に比例」する旨記載しています。
 
  • 当初計画に基づいた研究が着実に実施され、ほぼ目標は達成されたと評価される。本研究で開発した数値計算がどのように活用されたのか、また計算結果の妥当性に関するより詳細な解析についての説明が若干不足していたように見受けられた。暑熱対策効果調査については経済的効果の観点から解析が実施されるなど新規的な研究であると思われ、今後の進展が期待される。
  • 本研究で開発した数値計算モデルを、今後の対策効果一般化に向けて活用していきます。
 
  • 得られた知見はほぼ予想できるものである。例えば屋根の色の違い、屋根の材質の違いなどがどのように室内温度に影響するかなどの視点からの研究が大切である。
  • 定性的に予想できることではありますが、それを定量的に見える化することが重要であると考えます。ご指摘の視点については、都と相談の上今後の研究に生かしていきたいと考えます。
 
  • 「家屋の暑熱環境」のシミュレーションは実態とかけ離れている。クーラーの無い無人の家での体感温度の時間変化のデータは何を意味するのか。
  • クーラーがあっても使用せずに熱中症になる人が少なくなく、クーラーの適切な活用が課題であると認識しています。非空調室内の体感温度の変化を見える化することで危険な時間帯や原因を明らかにし、啓発に繋げることができると考えます。
 
  • 住宅密集地域における屋内外の温熱環境を丁寧に実測して明らかにするとともに、環境改善に向けた対策技術を提案し、外部発表を積極的に行っている点が高く評価できる。
 
  • 最終年度の暑熱対策効果の調査については、調査対象の条件の違いが大きく、分析に無理がないかと思う。
  • 暑熱対策効果調査につきましては、ご指摘のように調査対象の条件に差異があり、不確実性が大きくなることを見込んだうえでの解析結果です。
 
  • 2016年度から3年間にわたり、都区部住宅密集地につき、毎年度1地域、合計3地域の暑熱環境の実態調査を実施、また窓のない非空調家屋での日射による体感温度変化をシミュレーションした結果、熱中症による搬送者数が多い14時~19時の時間帯に屋内気温、屋内水蒸気量、体感温度が高くなることがわかったことは評価できる。都区部住宅密集地では高齢者が多く、家屋の断熱・気密性の改善等の個別の施策を進めるのは難しいと考えられることから、道路の拡幅などで風通しを良くするなど、行政としての対策が必須である。
 
  • 日射による体感温度変化をシミュレーションでは、窓のない非空調家屋という設定であるが、実際の住宅では窓があり、窓を開けて風を入れる、などの行動もあると思われるので、実態を反映できているのか、検証が必要ではないか。
  • 暑熱対策の効果検証のため、人の流れの変化調査については、緑陰や日除けなどが人の流れを滞留させる効果があることがわかったが、日除けの設置前と設置後の人の流れの変化データがあればなおよかった。
  • 暑熱対策の設置前後での調査を当初考えましたが、気象状況や周辺でイベントがあるなどの社会的状況をコントロールできないため、同一期間中における日除け有り無し等の複数条件での観測としました。
 
  • 当初の計画の範囲では着実に実施されてきたとは言える。
    ただ、住宅やビルの素材や構造に日射・風などの気象条件が加わって決まる熱環境の物理は解けるとわかっているし、種々の観測を行ってわかることも概して予測がつくことばかりである。研究結果は数値で定量的に得られるが、数値に必ずしも「一般性」はない。研究計画の段階でも結果の吟味の段階でも、何を解明したいのか、解くべき「謎」のようなものがあるのか、これこれを解決する方法としてこの技術はどれほど有効か等々、課題を明確に設定する意識的な努力が必要である。この研究のこれまでの経過においても、例えば熱画像によってこの条件下でこういう場所がこれほど熱くなる、等の発見・データ蓄積が種々あったと思うが、それに対する定量的な解決策などの具体的成果につながっていないのが少々もどかしい。
    その中で、空調機の排熱対策の効果の検討などではかなり具体的で対策検討に結び付く段階と言えるのではないか。また、熱中症搬送者数の分布などの客観情報の整理が、問題の具体的イメージを描くのに役立つことがわかる。
  • 上記のことにつながることだが、ヒートアイランド問題は「測ってみましょう」の段階ではない。対策の方が進みつつある。何を測ればどのような対策をどれほど打つべきか決まる、といった定量的具体性をもった課題設定に努める段階ではないか。
  • 実際に実施された対策の効果の定量化、数値計算を活用した対策の一般化に向けて研究を進めていきます。