東京都環境科学研究所

グリーンインフラによる暑熱環境改善効果に関する研究(2019-2021年度)

 

平成31年度外部研究評価委員会 新規研究の事前評価

研究テーマ
グリーンインフラによる暑熱環境改善効果に関する研究
研究期間 2019~2021年
研究目的 再開発等による都市緑地創出前後の暑熱環境改善効果を、省エネ効果等も含めて定量的に明らかにし、都市緑化等による都のヒートアイランド対策推進に資する科学的知見を得る。また、複数の地区を調査対象とすることで、緑地の量や質の違いによる暑熱改善効果を比較・検討する。さらに、ヒートアイランドや気候変動適応に関する情報収集等を行う。
研究内容
  • (1)都市緑地創出前後の暑熱環境の調査
  • (2)ヒートアイランドに関する情報収集等
  • (3)気候変動適応に関する情報収集等
2019事前評価 A 1名、 B 4名、 C 1名
評価コメント及び対応
  • グリーンインフラ(都市緑化)の創出による暑熱環境の改善効果を、観測とシミュレーションの両面から明らかにすることは大変重要であり、評価できる。
 
  • 北青山都営棟再開発地区と四谷駅前再開発地区において、緑化前(初年度)と緑化後(3年度)で観測データの比較を行うとしているが、下記の点で手法に疑問がある。
    (1) 両地区ともに、住宅密集地とはいえ、周辺には比較的大規模な緑地(明治神宮・代々木公園、明治神宮外苑・赤坂御料地・青山墓地、皇居など)があるため、ごく小規模な緑化による暑熱環境改善の効果が定量的に検出されにくいと考えられる。
    (2) 緑化の前後で比較するとしているが、わずか2~3年程度では樹木の生長の効果は現れにくい上に、都市による下記気温の違いが大きいため、純粋に樹木植栽による気温低下を定量的に見積もることは困難である。
    (3) シミュレーションと電力消費量の計測から緑化の効果を見積もるとしているが、周辺環境(大規模緑地や中高層ビル街)や年による気象条件の差異を考慮しない簡略的な熱対流モデルの利用や気象条件に大きく影響される電力使用量による効果判定は疑問である。
  • ご指摘の通り、広い範囲での効果を定量的に検出することは困難でありますが、今回の計画では、緑化工事2年後、5年後の調査を行い樹木の生長を考慮した長期の計画としています。緑化地区近傍においてはその効果を定量的に把握できる可能性があり、シミュレーションとあわせて知見の一般化に向けて研究を進めていきたいと考えます。
 
  • 緑化の効果を見る目的は、緑化の前の状態(土、コンクリート、石など)、緑化の仕方(植栽の種類、密度など)が異なります。多分緑化の効果は出ると思うが、どのような緑化の方法が望ましいのか、結論が出るのか。「この場合はこうだった、あの場合はこうだった」というような結論では意味がない。
  • 本研究は一定規模の緑化が周辺地域の熱環境をどの程度改善できるかを定量的に把握しようとするものです。シミュレーション等を活用して可能な限り知見の一般化に向けて研究を進めていきます。
 
  • 複数の調査対象箇所について具体的な暑熱対策の有効性を気象・電力計測や数値シミュレーションにより定量的に評価するという目標に対して妥当な手段、方法、研究体制が提案されていると評価される。その一方で、限定された箇所に関する知見をどのように総合的な施策に結び付けられるのかについても考慮する必要があるように感じられる。
  • 開発前、緑化後2年、5年と6年間にわたり複数の開発事例で調査し、これをシミュレーションすることで、敷地内の緑被率や建物の変化と関連付けて可能な限り一般性のある知見に結び付けられる様、研究を進めていきます。
 
  • 数値シミュレーションの妥当性および計算結果をどのように活用するのかについて検討してほしい。
  • 数値シミュレーションは実測と合わせてできるだけ妥当性を確保する努力をします。また、計算結果は知見の一般化に向けて活用していきます。
 
  • 4件の再開発事業の緑化効果を追跡調査し、さらにシミュレーションで一般化することが計画されており、ヒートアイランド対策の有用なデータが得られるものと考えられる。
 
  • 緑化による省エネルギー効果の推定については、気象条件の違いや機器の更新など、緑化以外の条件変化の影響をどのように取り除くのか、より具体的な方策の検討を期待する。
  • 緑化による省エネルギー効果の推定について、気象条件や緑化以外の条件の変化の影響を取り除く方策を検討します。
 
  • 都市再開発現場で緑地の形成による暑熱環境を改善効果を、実測とシミュレーションにより定量的に把握することを目的としており、今後の行政施策策定における基礎データとなることが期待される。気象計測のほか、近隣地域の家屋における電力消費量の測定や航空機による輻射熱計測など、多様なデータを同時期に収集し、解析することで、信頼性の高いデータベース構築が期待される。また、再現シミュレーションにより、解析モデルのブラッシュアップも期待できる。
 
  • 開始時期は再開発後の建設工事終了後であり、植栽前の裸地の状態から植物の成長による暑熱環境緩和効果の変化を実測できる計画となっているが、従前の建築物が存在していた時期のデータがあれば、建築物の形状の変化による効果(風通しの具合など)も把握できたのではないか。
  • ご指摘のとおり、従前の建物が残っている時点から長期間の継続的観測が理想的であると考えます。今回は通常の研究期間3年間を越え全体計画を6年として長期的継続観測を始めて実現いたしました。今後は理想的な研究により近づけるように努力していきます。
 
  • 長期間をかけて「前」から「後」への変化を追跡し、グリーンインフラの効果を「定量的に」解明するということだが、結果はおそらく予想できる範囲であり、改善の余地がある。
 
  • 対象として選んだこの事例ではモデルシミュレーションの結果がこうなり、実測と概ね一致した、というような成果にとどまるとしたら、現実の後追いでしかない。モデルの有用性がそれで確認できるのであれば、敷地内の緑被率の変化、またそれとの関係で変化するビルの高さ、などによって熱環境や省エネ率がどう変化するか等の一般性のある知見が得られてこそ研究の意義が出ると思う。
  • 開発前、緑化後2年、5年と6年間にわたり複数の開発事例で調査し、これをシミュレーションすることで、敷地内の緑被率や建物の変化と関連付けて可能な限り一般性のある知見に結び付けられる様、研究を進めていきます。