東京都環境科学研究所

評価結果 H27-2-3

平成27年度第2回外部研究評価委員会 新規研究の事前評価結果

研究テーマ
東京湾の水質改善に関する総合的研究
研究期間 2016(平成28)年度~2018(平成30)年度
研究目的 東京湾は昨今、豊かな海としての水質改善が求められているが、閉鎖性水域である東京湾は、夏季には赤潮が頻発し、底層の貧酸素水塊が広がる。また、底層溶存酸素量、沿岸透明度が新たな水質環境基準として導入される。これらの課題に対応し、長期的・広域的な水質改善に資するため赤潮や貧酸素水塊メカニズムの解明を進めるとともに、これまで得られた浅場・干潟の浄化機能の知見と合わせ、効果的な対策について研究する。
研究内容
  • (1)貧酸素水塊の発生メカニズムの解析と対策に関する研究
  • ①高頻度・高密度の水質現場調査
  • ②底層水の貧酸素化と赤潮発生との関係解析
  • ③底層水の貧酸素化と底質酸素消費との関係解析
  • ④貧酸素水塊発生要因の推定
  • (2)赤潮発生効果を期待できる植栽樹種の研究
  • ①赤潮形成プランクトンの特定
  • ②各種プランクトンの増殖特性の検討
  • ③各種プランクトンの増殖抑制物質の探索
事前評価 A4名、B1名
評価コメント及び対応
(同様の評価及び対応は、まとめて記載)
  • 本研究は、長期的視点でのデータの蓄積が必要であり、たとえ担当者が変わっても、環境の指標物質のデータを継続的に蓄積されることを期待する。
  • 環境指標のデータを確実に引き継ぎ活用できるよう、データベースの作成等を行います。
  • この研究により、低酸素水塊の発生メカニズムが確定され、それに基づき対策が取れるようになることを期待する。
  • 赤潮,底層貧酸素化は東京内湾全体の課題ですので,国や他県の研究機関,大学等と情報を共有しながら研究を進め,対策を検討していきます。
  • 荒川や多摩川の河口で水質の鉛直分布などを測定しており,赤潮(や青潮)発生のメカニズムを解明する上で有用なデータが得られている。このような検討は是非継続していっていただきたい。
  • 底泥からのリンや窒素の溶出については、pHの影響が大きいと思われるが、リンと窒素ではpH応答性(どのpH領域で底泥から脱離するか)が異なると思われる。リン酸イオンは底泥の表面電荷の変化にもよるが、リン酸イオンの電荷自体も変化(H3PO4 ~ PO43-)するので中性から弱酸性域以外で脱離する可能性がある。逆に、硝酸イオン電荷の変化がないので(実質的にNO3-のみ)、弱酸性から中性域で脱離する可能性がある。また、底泥付近では貧酸素水塊が形成されると硫酸還元菌が活発に働き、硫酸イオンが弱酸の硫化水素(毒性ガスで青潮の成分)に変化(H2SO4  H2S)するので、海水のpHも局所的に酸性化してリン酸イオンのみの脱離がおこる可能性がある。リン酸イオン脱離についてのメカニズムがはっきりしないのであれば、底泥を使ってリン酸の吸脱着について実験室的な検討をすることも意義があるかも知れない。
  • ・荒川,多摩川等の河口域から沖合いの水質鉛直分布について,詳細な調査を行います。
    ・底泥からの窒素・リンの溶出については,28年度は現場での水質・底質測定が主となりますが,29年度に室内での底質試験を行う予定です。室内での底質試験では、リン酸イオンの吸脱着等、底質中のメカニズムについて調査します。
    ・赤潮,青潮及び貧酸素水塊は東京湾内湾の共通課題ですので,近隣の研究機関,千葉大学等の大学と協力しながら,調査研究を進めていきます。
  • 2020年のオリンピック開催もあり、東京湾岸域の水質改善は急務である。一方で、東京湾全域の長期的・広域的な水質改善が求められており、本研究の意義は高いと評価される。
  • 研究の基礎となる水質調査について、調査対象水域をさらに拡大すべきであろう。そのためには、予算の拡充が求められる。
  • 東京都内湾の夏季水質鉛直分布に関する測定データが不十分である(配布された資料では、2011年7月6日の事例のみ)。水質の鉛直分布から赤潮・低層貧酸素に関する作業仮説を検証するためにも、測定データの充実を期待したい。
  • ・2020年東京オリンピック・パラリンピックを見据え沿岸域での短期的な対策を検討するとともに、沖合いも含めた長期的な対策の検討へ展開します。
    ・予算拡充の必要性については,環境局の理解が得られるように努力します。
    ・28年度は夏季を中心に週1回の水質鉛直分布調査を行います。29,30年度も頻度・地点等の内容を見直しながら、調査を継続します。
  • 東京湾の水辺の環境は過去の最悪の時期からすっかり改善したように言われることも多いが、「豊かな海」を享受するにはまだまだ根本的な課題があり、赤潮の発生も継続していることに関して、本課題の設定に期待するところは大きい。
  • 本課題に含まれる必須資料ではないと思うが、経年的な赤潮発生実態あるいは底質とか貧酸素水塊はどのような状況なのか?、その種の信頼できる資料はあるのか?、課題の説明の中で聞けるとよかった。また、上記のような経年変化傾向があるとすれば、気候の温暖化などはどのような関連が推測されるか、また河川からの流入水温の上昇などが何らかの影響を及ぼしてはいないのだろうか、と感じた。とにかく研究・調査・対策提言へと進めるうえで、何か「仮説」のようなもの、仮説までなくても「解明のカギはここだ(?)」みたいなものを設定して取り組めると良いが、現状ではちょっと「やみくも」の感じを受けた。
  • ・生態系のバランスがとれた「豊かな海」を復活させることが本研究の最終的な目標となると考えます。
    ・経年的な赤潮発生実態は環境局でデータをとりまとめ,公表してます。赤潮の発生回数,日数とも近年横ばい傾向にあります。貧酸素水塊については、広域的な経年変化の資料はありますが,都内海域では情報が不足しています。
    ・環境局で行ったシミュレーションにより底質からの窒素・リンの溶出が赤潮の発生に大きく寄与している等、いくつかの「仮説」に基づき、研究を進めていきます。