東京都環境科学研究所

有害化学物質によるリスク評価及びその危機管理に関する研究(2023-2025年度)

令和5年度外部研究評価委員会 新規研究の事前評価

研究テーマ
有害化学物質の分析法・環境実態の解明及びリスク対策に関する研究 【終了】
研究期間 2020年度~2022年度
研究目的 都民や都内に生息する生物への有害な影響を及ぼす可能性を視点に、優先度の高い化学物質を明らかにして、その排出源等を調査するとともに都内におけるリスクの解明、ひいてはその削減に関する手法について提言を進める。
研究内容
  • (1)都内環境実態の継続監視(環境省受託事業の化学物質環境実態調査含む)
    都内地下水における有機フッ素化合物の継続調査
  • (2)都内要調査物質の環境実態解明及びリスク評価
    都内において優先的に調査対象とすべき化学物質に対して、実態調査を継続、データを解析しリスクの評価を行う。さらに排出源周辺におけるリスクの極小化のための検討を行う。/li>
事後評価 A:優れている      5
B:普通
C:やや劣っている
D:劣っている
評価コメント及び対応
  • 有害化学物質の都内の環境調査としてサルファ剤6物質の河川濃度、酸化エチレンの大気濃度の観測が実施され、前者は予測無影響濃度を超過する観測地点が多いことを明らかにし、また事故・災害時対策としてGCMSによる多成分の網羅的分析の活用やPRTR制度の届出情報を整理した貯蔵実態の推計などを行い、環境管理に有用な知見が得られています。また、外部発表が積極的に行われています。
  • サルファ剤6物質の調査について、下水処理場放流水の方が流入水よりも最高で数倍高濃度であった点について、前駆物質からの生成の可能性があることは言及されていますが、この結果を環境管理にどのように活用することができるのかまでを結果の考察として示していただくと良いと考えます。
  • 優先度の高い化学物質の実態を調査し、影響の有無を明らかにしたことを高く評価します。また災害時対策としてデータ整備を行っていることも評価します。
  • 医薬品由来の化学物質の濃度については、あまり情報が無いと思われるので、非常に貴重なデータであると思います。
    事故・災害時における分析体制の構築は重要な視点だと思います。
  • (質問)これらの情報は、いずれ公表されるものでしょうか。
  • (回答)成果は学会発表や論文化を通じて、確実に公表していきたいと考えています。
  • 都内水環境に関する継続的な計測・調査が実施されており、事故・災害時における分析体制の構築も着実に進められている。成果の公表が積極的に実施されている点も評価される。/li>
  • (質問)次年度の研究項目にも挙げられていますが、水再生センターにおける放流水と流入水のスルファメトキザール濃度の挙動がセンターによって異なる要因について現時点で仮説はあるのでしょうか。
  • (回答)流入水等に含まれる前駆物質から下水処理工程において生成される可能性を検証したいと考えています。例えば類縁物質のスルファピリジンという物質に関しては、サラゾスルファピリジンという物質から生体内で代謝されて生成するという情報があります。まずはサラゾスルファピリジンとスルファピリジンを対象に、水再生センターの流入水と放流水との比較に留まらず、途中の工程水も調査することでその挙動を追跡していきたいと考えています。
  • スルファメトキサゾールは、水再生センターでは放流水濃度が流入水濃度よりも高く、水処理工程で全区物質から生成されている可能性が示唆されたことは評価できる。事故・災害時における分析体制等の構築は行政の研究機関として重要である。/li>
研究テーマ
有害化学物質によるリスク評価及びその危機管理に関する研究【新規】
研究期間 2023年度~2025年度
研究目的 化学物質による環境リスクを低減していくためには、環境実態の把握及び排出源の解明が必要である。そこで、都内において環境影響を及ぼす可能性のある化学物質を選定し、環境実態調査を通じて排出源や環境リスクの解明を進め、ひいてはその削減に関する手法について提言を進める。さらに化学物質漏洩のリスクに備え、漏洩物質を早期に解明する分析技術を高めるとともに、都内の化学物質を取り扱う事業所の情報を把握し、その可視化を進めることで環境局の災害対策事業への活用に役立てる。
研究内容
  • (1)化学物質環境実態調査(環境省受託事業)
  • (2)要調査対象物質の選定及び環境調査・分析の実施
  • (3)環境リスク評価の実施
  • (4)事故・災害時における分析体制等の構築
事前評価 A:優れている      3
B:普通         2
C:やや劣っている
D:劣っている
評価コメント及び対応
  • 前年度までの研究成果を発展させる形で、サルファ剤と酸化エチレンのリスク評価の深堀、毒性情報の整理、網羅分析やPRTR情報の可視化等を活用した事故・災害時の対応マニュアル化への取り組み等が予定され、研究目的に沿った計画になっていると考えます。
  • 災害対応マニュアルの情報は適度の更新が必要と考えられ、更新のことも見越したマニュアル化に取り組んでいただくことを期待いたします。li>
  • 排出源などの実態調査を継続し、対策につなげられるようにしてください。
  • 実態把握という場合、測定地点の代表性や測定数などについての方針を明確にした方が良いと思います。
  • 研究の着実な進行に加え、事故・災害時の情報の可視化など、重要な課題が設定されているように思います。
  • (質問)医薬品由来の化学物質に対して、どのような対策が考えられうのでしょうか。
  • (回答)医薬品のうちクラリスロマイシンなど抗生物質数種類がPRTR制度の第一種指定化学物質に追加されたので、今後、環境への排出量が減少していくかを追跡していきたいと考えています。また、これらの現状を広く公表することで、医薬品を使用する際は、「適切な薬剤」を 「必要な場合に限り」、 「適切な量と期間」使用するという意識を都民の方々に持っていただくことが大切だと考えています。
  • 環境実態調査の継続的な実施が計画されており、危機管理体制構築の具体的な目標が設定されていると思われる。
  • (質問)スルファメトキサゾール濃度がPNECを超過していることに対して緊急の対応は必要ないのでしょうか。
  • (回答))PNECは、水生生物に対する毒性実験を行ったうえで算出します。毒性実験で影響がないとされた濃度に対してさらに安全係数をかけて算出するため、今回の検出レベルでは、直ちに水生生物に対する影響が生じるというわけではないと考えます。ただ、環境省でもこのような物質に対しては「詳細なリスク評価を行う必要がある」と判定しているので、引き続き実態把握を行うとともに、情報発信に努めていきます。
  • 事故・災害時における分析体制等の構築は、行政の研究機関として必須であり、災害対応マニュアルの作成は高く評価できる。
  • 災害対応マニュアルにおいては、貴研究所自体が罹災した場合の代替分析施設についても考慮が必要ではないかと思われます。