東京都環境科学研究所

保護上重要な野生生物種の保護策強化に向けた調査研究(2024-2026年度)

令和7年度外部研究評価委員会 継続研究の中間・事前評価

研究テーマ
保護上重要な野生生物種の保護策強化に向けた調査研究【継続】
研究期間 令和6~8年度
研究目的 東京都生物多様性地域戦略(2023(令和5)年4月改正)に基づき、野生動植物保護に関する効果的な保護方策の検討や、東京の生物多様性の保全・回復に向けた施策を実践するためには、生態系及び種、遺伝子レベルでの生物情報や知見等に関する科学的根拠が不可欠である。そのため、都内における野生動植物相の把握や、保護上重要な生態系及び種の保全に資する調査研究を行い、生物多様性の回復に向けての検討を行う。
研究内容
  • (1)環境DNA調査や採集調査を都内水域等で実施し、都内水域における魚類や水生生物(動植物)等の生物相の把握を行う。また、合わせて標本調査や文献調査等を行い、自然史情報として蓄積を行う。
  • (2)保護上重要な野生動植物種の生息状況の把握や、在来種及び在来系統の減少要因となっている外来種及び外来系統による置き換わりや遺伝的交雑等の実態の把握に向けた科学的知見を蓄積する。
  • (3)野生動植物種の生息・生育環境の現状・変化等の把握を行い、生物種・系統の減少要因等の解明に向けた科学的知見を蓄積し、生態系及び種・系統の適切な保護策につなげる。
中間評価 A:優れている      5
B:普通         
C:やや劣っている
D:劣っている
評価コメント及び対応
  • 【質問】希少種の保護に重要な研究と思います。並行して底生動物などについて基礎データとしての環境DNAと実際の生物種を突合する作業も必要なのではないでしょうか。
  • 【回答】現状では、魚類以外の分類群の環境DNAメタバーコーディング(網羅的解析)は発展途上であり、対象とした水生植物や底生動物ではDNAデータベースが充実していない種もあるため、ご指摘いただいた通り、環境DNA分析で得られた結果と生息する生物種を突合する作業は必要であると思います。他のプロジェクトにおいて、有効なプライマー(環境DNAを増幅するための短い塩基配列。メタバーコーディングの成否に大きく影響する)等の開発に関わる予定であり、将来的にはその成果も踏まえて生物種の突合を行う予定です。 
  • 採取と環境DNA調査結果が着実に実施され、限られた情報から対象生物の生息状況と生息環境、外来種との置き換わりに関する議論が行われているものと評価されます。野生生物種保護の施策に有用な知見が蓄積されており、研究は適切に実施されていると思われます。
  • 魚類を対象とした評価として環境DNAを活用して調査が行われ、スナゴカマツカの生息分布を整理するとともに、保全に向けた取組を検討されています。
  • 【質問】説明のあったスナゴカマツカやドジョウ在来系統以外について、結果をふまえて生息環境の保全に向けてどのような検討が必要か資料に記載してほしいと思います。
    環境DNAによる調査は新たな取り組みと思いますが、調査方法に関する評価や改善点などがあれば、提示して下さい。
  • 【回答】スナヤツメ類、イワナ類、キタドジョウについては、生息環境の保全に向けた具体的な知見を得るのに十分なデータが得られなかったため、今回の説明からは省きました。なお、スナヤツメ類については都内では既往調査と同様、キタスナヤツメのみが検出されており、都内には同種のみが生息している可能性が支持される結果となりました。また、イワナ類については、環境DNA分析で主な対象とされるミトコンドリアDNAでは在来・外来の判別が難しいと考えられ、核DNAの分析が必要であると判断されました。キタドジョウについては、主に谷戸に生息場が残されていると考えられ、ドジョウ外来系統の侵入を防ぐことが個体群の存続に必要であると考えられました。
    環境DNA調査の評価・改善点については、魚類以外の分類群に適用するにはさらなる技術的な改善が必要であるとの感触を得ましたが、今後対象とする両生類等の結果を踏まえて改めて検討させていただきたいと考えております。 
  • 環境DNAを把握することの、生息環境の変化を把握する手法としての有効性を確認できました。
  • 【質問】何を分析すると環境DNAが明らかになるのでしょうか?また、改善策としては、具体的にどのような手法があるのでしょうか?
  • 【回答】環境DNAは河川水などの環境中に存在する生物由来のDNAのことです。これらをフィルターなどにより収集し、DNAのみを抽出・精製、PCR増幅して、超並列シークエンサー等により分析することで、その場に生息する魚類等の種を網羅的に把握することが可能です。ただし、分析系が確立していない分類群では、より種同定に適した領域を増幅するプライマーの開発などが改善策としてあげられます。また、ターゲットとなる種が決まっている場合には、網羅的解析(メタバーコーディング)から種特異的解析に変更することで、対象とする種の検出感度を向上させられる可能性があり、これも改善策の一つです。
  • 環境DNA調査により魚類について生息種を把握できたこと、特に在来種スナゴカマツカのみが生息していることが示唆された場所が明らかになったことは、今後の保護の方針を検討する上で高く評価される。
  • 【質問】産総研マガジンによると「魚類では、多くの種類の魚のDNAを検出することができるプライマーのセットがあり、DNA情報データベースも充実しているが、ほかの生物種ではプライマー開発やDNA情報データベースの拡充が課題」とのことです。水生植物や底生動物の環境DNA調査結果の解析は、かなり難しいのではないでしょうか。
  • 【回答】ご指摘いただきました通り、魚類以外の分類群の環境DNAメタバーコーディング(網羅的解析)は発展途上であり、今回の都内の水生植物と底生動物を対象とした分析でも同様の結果が改めて示されました。令和7年度以降は、これらを対象としたメタバーコーディングは実施しない予定ですが、底生動物については他のプロジェクトにおいて、有効なプライマー(環境DNAを増幅するための短い塩基配列。メタバーコーディングの成否に大きく影響する)等の開発に関わる予定です。
事前評価 A:優れている      2
B:普通         3
C:やや劣っている
D:劣っている
評価コメント及び対応
  • 希少種の保護に取り組んでください。保全する地域とそれ以外の地域をどのように決めていくかも考慮する必要があるのではないかと思いました。
  • 調査対象種を両生類や島しょ植物に拡大し調査を実施する研究計画は適切であり、さらなる調査結果の蓄積が期待されます。
  • 都内の野生生物の生息状況や保全策などの情報は環境保護の観点から有用であり、一般に広く公開されるような方策があれば良いと思います。すでに実施されているのかもしれませんが、水族館や自然博物館などの公共施設での展示を通して研究成果をアピールできればと思います。
  • 水生植物や底生動物などR6年度で対象とならなかった生物種について、どのような手法で分析を進めるのでしょうか?
  • 【質問】対象が動植物と広いので、分析が大変と思いますが、優先順位はどのように想定されているのでしょうか?
    結果についての情報発信や、保全や調査に向けては都民の協力も必要になると思いますが、こうした点についての検討は行われているのでしょうか。
  • 【回答】対象種は東京都環境局との協議により決定しており、主に「東京都自然保護条例」による希少野生動植物種や希少野生動植物保護区等の指定の可能性のある種を対象としています。調査手法は環境DNAを活用しながら、対象種の生物特性と調査目的に応じた調査・分析方法を選択していきます。
    対象種がいずれも希少種ですので、生息地に関わる情報を公表すると乱獲や盗掘につながる恐れがあり、情報発信には苦慮しているところです。まだ具体的には検討しておりませんが、都民の協力を得る際には、必要最小限の範囲に情報発信していくことになると考えております。
  • 希少種や絶滅の危機にある種に対しては、現状の解析にとどまらず、保全に向けた有効な対策が示されることを期待しています。
  • 対象の動植物を増やすことで、データの充実を図ってほしいと期待します。
  • 調査結果に基づいて、具体的な保全策・環境改善策が出てくることを期待しています。
  • スナゴカマツカの生息環境の変化に関する調査・研究は、今後の生息場の保護・拡大につながるものと期待される。